都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その3
平和なひと時
第93話 都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その3
穏やかな日々。穏やかな日常。
奴隷の少女がこの城に来て5年になる。
「王様」
奴隷故に与えられなかった知識をこの城に来てから学びたいと言い出して学び、手伝いたいと言い出して白の仕事にも取り組む。
生贄と言う立場なので、危害を加えられない。
少女にとってはここは平和な世界だった。
「花を見た事が無い?」
玉座の間。
一面の花畑の花の話をしていたら、
「花か。…見た事は無いな」
と獣の王が呟いたのだ。
「ああ。遠見の術では見た事はあるが直に見た事は無いし、触った事も無い。……王になる前ならあったかもしれないがあの頃はただの狼だったから興味も持たなかったな」
なんて事無い呟き、
「………お城の近くも花は無いね」
「渓谷だからな」
環境的に咲きにくいかもしれないな。
もしかしたら花が咲いてなくて寂しいのだろうかと獣の王が尋ねようとしたら、
「――よし。決めた!!」
どこか嬉しそうに決意した姿。
何を決めたのだろうが、
「何をだ?」
自主的にやりたい事があるのなら止めない。好奇心や決意は素質を育てる事になる。
「えへっ、内緒♡」
内緒か。
「…………寂しいな」
「寂しがってもダメ!! でも、すっごくいい事だよ!!」
楽しみにしていてね。
笑顔で告げられたら何も言えなくなる。
「分かった。楽しみにしておくよ」
寂しいけど。
ふふふっ
少女は笑う。
その笑みは魂の輝きそのものに見えて微笑ましい。
数日後――。
少女が城を出る許可を得てお出かけしていった。
念のため護衛を付けて行ったが、内心心配していた。
魔人と獣人しか居ない城。
人間の世界の方がいいと言い出さないか。
生贄と言う立場なので人間の世界には帰せないが、帰りたいと言い出したらどうすればいいのだろうか。
帰りたいと言うのを止めて弱っていった生贄も多く居た。
帰せないが里帰りをした者もいた。
親の死に目だけでも会いたいと希望を出した者もいた。
少女もそう言いだすのだろうかと。
………覚悟をしていた。
「ただいま~」
護衛と共に帰って来た少女の手にはたくさんの花々。
「はい。王様」
そっと渡される。
「ほんとは連れて行ってあげたいけど、王様は離れられないと言ってたからお花を摘んできたんだ」
赤。白。黄色。橙。青。水色。紫。
ピンク。
「私はピンクの花が一番好きなんだ」
ピンクの花が一番多いのはそれでか。
「王様は?」
「そうだな…」
これが本物の花か。
「私もピンクかな」
お前によく似会う。
遠見の術で見た事があった。髪に花を挿す。
「………こういうのを可愛いと言うんだったな」
確かそう言っていた。
ぽふっ
赤らめた顔。
「………こういうのを気障って言うんだよね。きっと」
「……?」
何の事だ。と首を傾げるが、
「王様には内緒」
と言われてしまった。
それから少女は何度も城の外に行き、花を摘んできた。
たくさんの花。
それはまるで少女の心の様。
そんなある日。
「行方不明…?」
「はい。護衛の者と逸れてそのまま…」
その言葉を聞かずに護衛として付けていた者を睨む。
それだけだった。
それだけで護衛の者は苦悶の表情を浮かべ床に倒れる。
「――探せ」
命じる。
それだけで動き出す気配。
「どうか無事で…」
玉座から動けない自分がこの時ばかり恨めしかった。
このお二人書いてると癒される




