いい加減にしろ勇者
龍と人間の交流会
第79話 いい加減にしろ勇者
筋肉隆々の軍人風の男。龍帝の長男――進化を運ぶ風。
小柄な人形のように表情筋が動かない少女――白銀の爪。
びくびくおどおどして気弱な末っ子――確か名前は、水琴の調べ。
それが龍帝の子供達の名前だった。
…………あれっ。
「”次男が居ないな”」
記憶にあるのは須っごく小さかった頃だけど、4人とも来ているのが普通だよな。会った事無い末っ子も来てるし。
「……獣の王を倒した勇者一行」
長男が私を含めた勇者ハーレム(‐勇者)に向かって話し掛ける。
「我々は、この地に隣接する地区を統治する龍帝の子供。此度はこの地の代表としてそなた達に訪ねたい事があって来た」
……………。
「………訪ねるって言っている割にやり方が非常識ではないか」
女騎士がぼろぼろになって訪ねてくる。
「こちらの話に聞く耳持たないのなら聞ける状態にするまで」
「…………説得(物理)ですね。それ誤解を広げるだけだから」
猫被って、大人しく話をしようとしたのにすぐ剥がれた。
「――で、何を訪ねたいのですか?」
まあ、大体末っ子に聞いたけど。
「――無論。獣の王のたまっ、遺体だ。――どうした?」
…………今、魂と言い掛けたな。
「獣の王……貴方方の言うのが魔王の事なら遺体は素材として売りましたよ」
被害者の復興資金にと。
答えるのは巫女。
「――成程。始まりの勇者の遺言は残ってないのか?」
…………詳しいな。
「始まりの勇者?」
「………知らないの? 神に仕える者のくせに?」
ああ、爪はそうやって巫女をいじめたのか。
「知りません!! 勇者は後にも先にも今の方のみです!!」
ムッと言い返すけど、誇れる事じゃないから。
「ユスティ様の選びし勇者は彼の方のみ。仮にかつて勇者が居たとしても偽物です!!」
ユスティ?
「……ユスティって?」
嫌な予感がする。いや、予感ではなくて、ユスティと言うのがもしかして、私の知っているユスティだったとしたら……………。
「無論。この世界の唯一の女神。その方の名前です」
色々突っ込みたいけど、
「……………………唯一なのに”女”神なんだね」
女の神。それは男の神が居る前提で呼ばれる呼称だと思う。唯一ならわざわざ女神などと言わないと思うのに。
「それがどうしたのですか?」
巫女気付いてないな。
これだから神に妄信的な輩は。
ついつい歴史好きであったので、宗教戦争とかもろもろが脳裏に浮かんだ。
まあ、取り敢えずそれに対しては保留にして、
「神様の名前は呼べるんだね」
魔王でも簡単に。
「えっ! そう言えば……!!」
今気付いたんだね。さてと、
「”揺さぶり掛けてみますか”」
ちょっと楽しくなりそうだな。
「――リジー。惑わされるな」
どこからか声がした。と思ったら、
「っ!!」
殺気。
とっさに躱す。
「………………やっぱり」
悲しげな声。絶望した顔。
「君は魔物の勇者だったんだ」
勇者の言葉。
「…………」
色々言いたい事があったが、取り敢えず。
「………………いい加減にしてよ」
と言わざる得ない状態だった。
真緒「頭痛くなってきた」




