茶番劇の始まり
龍達は戦う相手に敬意を持って戦うので拳で語り合うのが主流です
第75話 茶番劇の始まり
女神ユスティが降臨したのは、少し離れていた者達にも感じ取れた。
「ああ…」
祈るように手を組む巫女を呆れたように見るのは巫女の前に現れた龍の少女。
「どうした? 《白銀の爪》」
少女――白銀の爪は声を掛けてきた兄を見て、
「まだ。偽りの神に縋るから不快なだけ」
と答える。
「気持ちは分かるが、これ以上手を出すな。我らの目的は勇者一行に話を聞く事だ」
「そうだけど…。勇者一行のわりに知識が偏り過ぎていて…」
相手に敬意を持って戦うのが自分達の流儀だ。それを守ってない人間腹が立つ、
「……そこで手を出したら我らも相手に敬意を無く倒したという事になる」
自らの品位を落とすな。
そう告げられて渋々手を下ろす。
「ユスティ様がわざわざご降臨してくださるとは……」
感極まって泣き出す巫女に冷めた目を送る龍二人。
そこに、
「大兄様。姉様」
びくびくしながら二人の少女を連れてくる弟が見える。
「……勇者一行は勇者含めて4人だったよな」
「はい。そう調べてますが」
誤った情報は味方を苦しめる。正確の情報を持って挑まないといけないのにこの体たらく、
「白銀……」
「はい。兄様」
兄の腕を手に取って、その腕を叩き折ろうとする妹。
…………降臨に意識を持っていかれていた巫女も女騎士もその様にどん引いた。
「戦士として上に立つ者として責任を取らないといけない」
「その通りです兄様。介錯はお任せください」
「…………”相変わらず過激だな。爪。それに風”」
不意に愛称で呼ばれる。こちらの地では言語が異なると知ったのでこちらの言語を覚えてから来たのだが、今のは自分達の使用している言語。
風霊を通して秘密裏に送られた言葉。そして、その魂の質に気付いて、
「”………久しぶりです。獣の王。ラーセル様"」
同じ様に風霊に言葉を運んで告げる。
「”………今は新庄真緒と言う。取り敢えず初対面の振りをしておいてくれ”」
「”大兄様? 姉様?”」
「”………末の弟は初対面でしたか?”」
「”ああ。四人目は生まれたと報告だけだな。………その後妻が亡くなったと連絡は合ったけど、会いに行けなかったからな”」
大きくなって驚いたよ。
姿形は変わってもその本質は変わらない。
「”爪の名は私が付けたのも覚えてるよ”」
にこりと笑うと、
「この者の手を出さないで欲しい。誇り高き天翔ける龍帝の子供達よ」
とこちらの地域の言葉で告げてくる。
茶番劇に付き合ってくれ。
目が伝える。
ならばそれに乗っかるのもいいだろう。
「我らと対等の話をしたいと言うか? 勇者一行の一人よ」
「…………正式には一行じゃないけどね」
我らとまともに話そうとする態度を見て最初の二人が動揺したように人の姿をした獣の王を見るのだった。
龍帝「娘が生まれてな」
獣の王「めでたいな」
龍帝「妻が名前を獣の王に付けてもらいたいと言い出してな。付けてもらえないか?」
獣の王「責任重大だな。………じゃあ、白銀の爪」
龍帝「勇ましくないか? 女の子だぞ」
獣の王「じゃあ、ラシェル」
龍帝「……それ、お前のお気に入りの勇者」
獣の王「………牙でいいじゃん。毛皮無いし」
龍帝「もふもふを娘に求めるな!! ……白銀の爪にしとくわ。白銀で勇ましさを消せると思い込んでおく………」
獣の王「…………そんなにおかしいかな?」
のちの真緒様。
(…………花の名前にしとけばよかったな)




