女神二人
本当は二柱の方が正しいですがあえてこれで
第73話 女神二人
龍帝の子供……。
龍。
この地に今迫っている侵略者は、三つ。
植物系の魔物。
死霊系の魔物。
そして、
「ドラゴン……」
ファンタジーお約束。前回の冒険では動物系ばかりで物足りなかったので、ドラゴンが居ると知って大喜びした。
そのファンタジー憧れのドラゴンが人の姿で目の前に居る。
「…………」
感動すればいいのか。
恐怖すればいいのか。
それとも、
「………獣の王は何か言い残さなかったのか? この地を守る結界の事も。自分の死で起きるだろう危険性も」
青年は呆れたように、いや、見下すように告げている。
「結界…?」
魔王の死で四方を囲んでいた霧が晴れた。
狭い世界に囚われていた人達はそこから広い世界に出た。
それで、
それで。
「三方向からの侵略者……」
「一つは俺らな。親父様の伝言と言うか命令でさ。……最初の勇者との約定があるのに結界が消えたから。その原因を調べに行け。もし、倒した勇者が約定を無視しているならこの地を俺らの支配下にしてもいいよな」
って、事でな。
「まあ、兄さんは結界の崩壊の危険性を勇者一行は知らない可能性があったかもという事でまず話を聞きに来たんだけど。………失望したわ」
勇者としての役割をしてないし、獣の王の話も聞いてないみたいだし。
「それなら、さっさと支配してもいいだろう」
向けられたままの剣。そのまま倒す事も可能だが彼はこちらの返事を待っている。
「俺は……」
何か言わないといけない。何か……。
《龍の言葉を聞いてはいけません。勇者》
どこからか声が降りてきたと思ったら、光に包まれた半透明の女性がゆっくり空から降りてくる。
(彼のモノは、言葉巧みに貴方を洗脳しようとしております)
慈愛に満ちた笑み。それは、
「女神ユスティ……」
呼び掛けると一瞬だけ、嫌悪感を表に出したように見えたが気のせいだろう。
《ようやく、呼び掛けられました》
ユスティの柔らかい声。
《彼のモノは貴方を洗脳してこの地を支配するのに協力させるつもりなのです》
相手にしてはいけません。
そう忠告するユスティを興味深げに眺め、
「偽りの女神か。…勇者の名を呼べず、自身の名を呼ばせている。高位の者とは程遠いな」
偽りの女神?
「ユスティを侮辱するのか!?」
話が通じると思ったが、所詮魔物か。
敵わないと思うが、女神に選ばれた勇者として一太刀入れないといけない。
《勇者。止めてください!!》
女神の声がこちらを気遣うものよりも優越感を宿しているように感じたが、気のせいだ。慈悲深い女神にそんな人間のような負の感情は無いだろうし。
《ユスティ》
別の声が、同じように降りてくる。
《生贄の勇者……》
《勇者達に接触するのは禁じていたはずだ。なのになぜ接触する!!》
同じように光を宿す女性。
《何、言ってるの? 私は私の玩具がそこに居たので導こうとしただけよ》
《………自分の都合のいいように。か》
《魔王寄りの女神が何を言ってるのかしら?》
魔王寄り?
「ユスティ!?」
《勇者。彼の女神はこの地に戦乱を巻き起こす魔王の女神です》
ユスティが恥ずかしながらと告げる。魔王の女神と言うのは知らないが、つまり、
「魔神というモノか………」
魔王の上と言うのもお約束だよな。
魔王の女神は切なげにこちらを見てくる。
《龍帝の息子よ。ここは逃げてください!!》
その声と同時に、
《勇者よ。聖剣に新たな力をお貸ししましょう》
ユスティの声。
その声と同時に剣がより力を持つ、
《逃げ…!?》
「”………龍帝の息子なら我が君から命があれば助けろと言われるでしょう”」
どこからか声がしたと思ったら、
《逃げられました》
ユスティの言葉通り。そこには誰も居なかった。
女神介入。そして、勇者は利用される




