始
ラーセルシェードが魔王になるお話し
幕間 始
始まりは一匹の狼だった。
白銀の姿を持つその狼は、狼でありながら自らの群れの中に狼以外を入れていた。草食動物でも別の肉食動物でも、かの狼は興味をそそるモノであれば自分の群れに入れ、守ってきた。
種族の違い。肉食と草食。それらで争いが起きそうになるがかの狼の決まりの元争いは出来ず。群れの中の肉食は群れに加わってない生き物を襲うことが義務付けされた。
その決まり事を面白くないと思う者も多く居た。
いつでも食べられるところに居る餌。
それが食べられない。
群れの長は草食ばかり近くに置いている。
それでもその群れに命を救われた者も多く居るので文句は出ない。
当然、その不満に狼は気付いていた。
近くに置いているのは同じ群れの肉食から守りやすくするため。
そもそもかの狼がこのような奇妙な群れを作ったきっかけは一匹の草食動物――馬との出会いがきっかけだ。
馬は、人間に使われて、老いたから捨てられた。
本来なら狼の腹に収まって終わりだった。
老いた馬の前に狼が姿を現した時、馬は狼を見ても逃げず、近くの鳥の歌を聞いていた。
馬は自分の死期を悟っていた。
人に育てられて、人に捨てられて、生きる術もない。若ければ無茶をしたが、もう老いは進んでいる。
それならば最後は好きに生きよう。そう思って狼が来ているのに気付きつつ、鳥の鳴き声に耳を傾けていた。
自分の姿を見たら一目散に逃げる動物ばかり見ていた狼は逃げずに何かに意識を取られてるその馬に興味を持った。
共通の言語は無い。
生活習慣も餌も違う。
それでも、そこには友好が生まれ、狼は馬が亡くなるのを見送った。
そして、亡くなってからその肉を自分の中に取り入れた。
それが狼に出来る埋葬の仕方だった。
その時から狼は自分の群れの中に狼以外を入れて行くようになった。
家族を守るために、狼にすら襲い掛かろうとするウサギ。
本来の群れから離された鹿。
などなど。
多くの種族が集い家族になった。
家族間でいろいろ問題があるがそれでも家族を守りたい。
それがかの狼を強い生き物。魔族に変貌させた。
狼から魔族になって最初に望んだのは話す事。
同じ群れで何となく意志は伝え合っているが、話は出来なかった。
それゆえの望み。
かの者は群れから言葉を学んでいく。
言葉を得た事で疎通もしやすくなり、連携なども起こるようになった。
狼に敬意を持つ者らが次々に魔族に変貌していく。
魔族になった事で食事に関しての問題が起きにくくなっていく。
群れはどんどん大きくなっていく。
そうなってくると必然的に狼は、魔族の中で最高の地位を持つ魔王になっていった。
そして、
「………私を見ている者がいる?」
必然的にその存在――高位の者を感じ取れるようになっていった。
真緒様の帰還は次回




