表に出た心
真緒様は強くありません
第59話 表に出た心
………何かを握っていた。
「”我が君。我が君。今、勇者も倒します。そうすれば、そうすれば……”」
私を認めてくれますよね。
「”我が君。私を見てください。私は我が君の為に”」
ぐさっ
必死になって言ってくるそいつを貫く勇者の剣。
「”我がき……”」
半魔の器を持っていても勇者の剣には敵わない。
消えていくそれを私は一瞥さえしない。
「新庄さん!!」
勇者が無事を確かめるように近付いてくる。
それを見て――。
「もう、嫌!!」
気が付いたら《私》は叫んでいた。
「しっ、新庄さん……!?」
「もうヤダ!! どうして私が、どうして!!」
今まだの新庄真緒と言う人間なら決して出ない言葉。表情。だけど、それは、紛れもなく本心。
「帰してよっ!!」
涙が溢れて止まらない。
「家に帰してよ!!」
勇者――湯島を責める声は止まらない。
「私を帰してよ!!」
握ったそれを手放さない様に必死に握ったまま、
「もう、ここに居たくない!!」
近くには魔獣使いと半魔の死体。
《私》は限界だった。
*
(ここは…)
気が付くと大量の本棚が並ぶ空間―――。
「えっと、ここって……」
来た事がある。確か、
「私が三人居たところだ」
「正解」
声がして、そちらを見るとそこにはかつての私。魔王ラーセルシェードが居る。
「あれっ!?」
確かもう一人。人間の私も居たようだけど……。
「――あれなら表に出ているよ」
「表…?」
「そう」
ラーセルシェードは一冊の本を取り出す。
「見るといい」
本が開かれると、そこのは号泣して勇者を責め立てる《私》の姿。
「えっと………」
「《人間》としての私が限界になったのだ」
脳筋のイメージがあるのに説明してくれるのは意外だ。
「………失礼な事を考えているみたいだな」
まあいい。
「私達は同じ魂を持っているが完全に同じでは無い」
前回も同じ事言われたな。確か、私は魔王だったと認識している人格だったかな。人間としては耐えられない変化を耐えるための私。
「感じ方も人格に差が出る。――お前が二人の死に耐えられなくなったから表に出たのだ」
二人の死――。
「シトラさん。シヅキ…」
気に入っていた。そういう認識だった。でも、
「人間としてのお前は心を許したというのが近いかな」
ラーセルシェードはゆっくり近付き、
「だが、魔王としての私は死を悲しまない」
そっと、握ったままの手に触れられる。
「分かるか?」
ずっと握ったままの手。そこには二つの生命の鼓動。
中身を確かめようと手を開きかけて、
「――ここで開くな!!」
と強く止められる。
「ここで開くと逃げてしまう」
いや、違うな。
自分で言って訂正する。
「ここで開くと同化してしまうだろうな。この図書室と」
それとも冥府に行くか……。……になるか。
後半はよく聞き取れなかった。独り言。
「これって…」
「魔王が命じれば復活は出来るが、そうするとこの者らは完全な魔族になる」
半魔と人間ではなく。完全な魔族。
きちんと説明されてないが、予想付く。
「………魂」
まさか、そんな事出来るなんて、いくら私が魔王だったと言え、
「握っているのは人の身体では負担が大きかったから余計人間の人格が表に出た。そういう事だ」
安心しろ。気を失って目が覚めれば戻れるだろう。
そう言われても、
「頃合いを見て解放してやるといい」
「……………そうしておく」
もう何でもありだな。
そう溜息交じりに悪態を吐いてしまった私はまだ人間としての常識があるんだなと妙な事を思ったのだった。
そろそろこの章も終わるかな(二度目の呟き)




