呼び掛けに応じる
主人公の帰還
第58話 呼び掛けに応じる
ピンチだった。
リムクラインが黒い鎧の集団を相手していて、シトラを助けに行けない。
「”アカネを動かしたら怪しまれる”」
アカネの主は私だと勇者達にはバレているし、新しい魔族を生み出してもいいが、何せ時間だ足りないし、イメージが上手く紡げない。
それで可愛くない子が出来てしまったらその魔族が可哀想だし、それだけ責任も重大なのだ。
…………最初から可愛くないのを作るのを楽しんでいる別の魔王が居たがまあその件は置いておいて。
「”リム。そいつらは任せた”」
高みの見物と行きたいのに上手くいかないものだ。
苦笑して、人の塊の中に入って行く。
「シトラさん!!」
中心には魔獣使いと責められるシトラが怪我をして倒れてる。
「マオ…!?」
どうしてここに!! 危ないからと言おうとしているのだが、うまく言葉が出てきてない。動揺しているからか腹とか攻撃されていたからか不明だが。
「シトラさんが何をしたんですか!?」
庇うように手を広げる。
「………」
正直に言おう。
怖い。
魂は魔王でも今は人間だ。
人の心は殺意を向けられて悲鳴を上げている。
汗が流れる。
逃げ出したい心が顔を覗かせているが堪えるし、もし逃げ出したくても足が竦んで動けないだろう。
怖いよ!!
心の奥から声がする。
でも、
「”私は守る者だ!!”」
怖さを吹き飛ばすように宣言すると、
「新庄さん!!」
………いつもなら来てほしくないと思うのに今は天の助け――そういうのは信じてないが――に思える声。
「湯島君!!」
叫ぶとともに人の塊が割れて道が出来る。
手には勇者の剣。
それが何よりも身分証明になるし、この街に来てすぐに正体がばれたのですぐに道を作ったのだろう。
………冷静にもさせてくれたみたいだし。
「新庄さん。大丈夫!!」
慌てて問い掛けてくるのにどう答えればいいのかと口をパクパクさせていると、
「”勇者…!!”」
声がして、新たな客が現れる。
「”お前……!?”」
ウサギの耳を持つ半魔だった。
「”シヅ……?”」
呼び掛けようとしたがその口は止まる。
見た目は知っている半魔――シヅキだった。でも、
「”ああ。我が君。ここに居られたんですね。見てください。私が勇者を倒すとこを”」
目には狂気。妄執。
「”そうすれば認めてくれますよね。私の事を”」
……………バカな事。認める認めないと言っている時点で根本を私に託している。それが魔王を目指していた者の末路か。
「”………その者は私のお気に入りだったが”」
冷たく告げるが、聞こえてないのだろう。いや、
「”そうですか。なら、都合がいい。この者も私に身体を渡して我が君の役に立つのなら本望でしょう”」
勝手な言い分だ。
「”では、お見せしましょう”」
勇者を倒すところを――。
勇者に襲い掛かろうとするそいつに勇者は反応する。
勇者の剣が動き、肉を断つ音がする。
「えっ…………!?」
目の前の光景が信じられなかった。
勇者から庇うようにシトラが串刺しになっている。
「”ど…して……”」
庇ったけど無傷でなかったのだろう。その唇から漏れたのは信じたくないと呟く本来の身体の持ち主の声。
消えかかっていたのが衝撃で表に出たのか身体を奪った奴がダメージを押し付けたのか。
「シトラ」
笑う。苦しそうに、それでいて幸せそうに、
「”ずッと、名乗りたかった”」
シトラの言葉にシヅキは涙を流す。
「”……私の、私の名はシヅキです!! ずっと、ずっと、名乗りたかった!!”」
涙を流して叫ぶシヅキにそっと、
「”いい…名前だね…”」
と告げて、シトラは目を閉じる。
「”………!?”」
声にならない叫びをシヅキがあげる。
そして、再びシヅキの人格は消える。
「”この人間のおかげで助かったわ”」
にやり
不愉快に笑うそいつはもs化したら私の反応を待っていたかもしれないが、私がしたのは、消えゆく何かを掴んだ事だけだった。
さて勇者さっさとごみを片付けなさい




