恐怖が支配する街
真緒様は居ません。
第56話 恐怖が支配する街
……薄氷の上に作られた街だった。
魔物と共存する街。
それを謳い文句で出来たそこに、最初は半信半疑だった者が数多くいた。
当然だ。
魔物と人は相容れない。それは教会で学んでいた。
魔物に話は通じない。人に近い姿をしていても動物と変わらない。
だからこそ、魔物と共存が出来る事で人々の心に変化が生まれる。
長年恐怖の対象だった魔物が自分の思い通りになる。思い通りになったのだ。
ある者は家族を魔物に殺された恨みで虐げた。
ある者は恨みこそないが強者をいたぶる事に快楽を覚えた。
魔物はそれをされて当然だから。
そんな心が人々の中に芽生えていた。
いつしか人々は魔物と言うのは都合のいい道具と認識していた。
逆らわないように名を奪い。支配の道具を首に着け、酷使する者。
一部の者がそれに警鐘を鳴らすがそういう者は次々と捕らえられた。
きっかけはなんだったのだろう。
魔物と共存する方法を創り出した者が勇者を敵対視したから?
その者が魔王の怒りに触れたから?
この街に勇者と魔王が辿り着いたから?
それとも、
…………………魔族の中でも穏健派と呼ばれる者が魔王と勇者にこの街を教えたから?
真実は不明。ただ、幾つかのきっかけで、街の土台は崩れ、落ちていく。
虐げられた魔族はまず虐げてきた人間に復讐をする。
殺しはしない。殺すなと命じられたから。
だが、恐怖を与えるなとは命じられていない。
ある者は、永遠続くかと思われる鬼ごっこをさせられた。
ある者は、人睨みで家具を破壊された。
ある者は爪。または牙で脅された。
その時になって、人々は自分達が弱者である事を思い出した。
嵐は去っていく。
今まで虐げてきた魔物達は次々と消えていく。
そこに――。
「魔獣使いが現れた!!」
恐怖で顔を歪めた次期領主が逃げてくる。
人々は悟る。
魔物達の突然の反逆は魔獣使いのせいだ。
怒りの矛先。恐怖に対しての当たり所を見付けて人々は動く。
「捕らえろ!!」
「殺せ!!」
そいつのせいだ。そいつが悪い。
手に武器を持ち、次々と魔獣使いに襲い掛かる人。
それを見て笑う影にも気付かない。
「これで足止めが出来る」
勇者に殺されるわけにはいかない。後は、街の者が魔獣使いを捕らえて、勇者達を足止めしてくれるのを待つだけだ。
「”我が君……”」
汚名を返上しないと、我が君に認めてもらわないと。
魔王に要らないと言われた時からゆっくりゆっくり崩れていく身体が重い。
このままじゃ汚名も返上できない。
早く何とかしないと――。
「”何をしてるんです”」
声がする。そこには一人の半魔。
「”我が君の命で…”」
何か言おうとするが届かない。
「”いいモノがあったな”」
ただ、その半魔を見て、利用できると考えたのだった。
そしてますます逆鱗に触れる(笑)




