敬意を払える者
リムクラインの活躍
第54話 敬意を払える者
魔獣使い。そう呼ばれたとたん自分に向かって警戒したような視線を少年――青年と言うより若いから少年でいいだろう――から向けられる。
「”我らの言葉を理解できる者を人は魔獣使いと呼んで迫害してきました”」
助けてくれた魔人が教えてくれる。
「”すみません。伝えておけばよかった”」
「”……いいよ。連れて行って欲しいと言ったのはこちらだし”」
牢屋に閉じ込められそうになった時だった。
黒い鎧の集団の動きを一瞬で封じた魔人は、次々と牢を破壊していった。
だけど、牢の中に居た人間はだれ一人そこから出ようとしない。
怖かったのだ。
魔族。しかも、魔獣や獣人ではなく魔人。いくら魔族に好意的でも怯えるのは仕方ない。
「”早く逃がせと命じられたのに”」
舌打ちをする魔人に増すます怯える人々。
「”人の言葉を覚えておけばよかったか。いや、それだとますます警戒させてしまう”」
困っているというのはかろうじて分かったのは言葉を学んだから。ので、
「ここから逃がすように命じられたと言ってます」
魔人である彼が言うより自分が言った方が動いてくれる。そう判断して通訳を買って出たのだった。
「”勇者の攻撃は防ぎますので、その間逃げてください”」
「”でも、リムさんは!?”」
魔人――流石に正式名は告げられないが、リムと言う呼び名で呼べばいいと告げられたのでリムさんと呼ばせてもらって居るが――それが破格の行いだと言うのも理解している――。
「”私はここで捕らわれている魔族と人を開放しろと命じられました。特にお気に入りの貴方を”」
勇者が攻撃してくるのを避けながら、
「”私は我が君の命を守らないといけません”」
その言葉に迷いながらもシトラは逃げる事にする。ただ、
「”必ず。無事で会いましょう”」
そう、再会するのを楽しみにしてると祈る事にした。
リムクラインは勇者の攻撃を防ぎつつ無事に逃げた青年の気配に安堵する。
人間は嫌いだ。
そう言い切れる。
我が君の命令が無ければ人間を逃がそうなどとする気はなかった。
だけど、
『”俺が説明しますので、連れて行ってください”』
魔人と言う存在は敵だと教えられたのに係わらず、そう名乗り、
『”信頼できないと思いますので名乗っておきます。俺シトラと言います”』
そう簡単に名乗る青年。
なるほど、我が君が気に入ったのはこの者か。
『”リムだ。正式名はあるがもし万が一の事があるので名乗れないが気に入ったので告げる”』
名乗ってもいいがもし万が一その名を口にして苦しみ出したら責任は取れない――魔王の名を口にして発狂しだすほどでは無いがそれなりの苦痛はあるし、拷問されて無理やり言わされる事もある――ので、我が君直々に与えてくれた呼び名を伝えた。
「”勇者か”」
今この者を相手をしろと命じられていない。もう逃がし終わった。なら、ここに居る意味もない。
「”真実も知らずに踊らされる者に用はない”」
告げると転移する。
「”ご苦労だったな”」
そこには我が君の姿。
「”勇者に梃子摺りました”」
申し訳ありませんと告げると首をふるう。
「”いや、いい。あの者は私を倒した者だ。だが”」
不快気に顔を歪める。
「”あのごみは勇者の手で片付けてもらわないとな”」
その視線の先には例の婚約者として街を支配していた男。
その者は今、魔獣使いが現れたと吹聴している。
「”我が君!!”」
「”リムクライン。シトラの保護を”」
命じて動こうとするが、その自分達の近くに多くの魔人。
「”これは…”」
「”真実を知らない阿呆どもだ”」
おそらく我が君の正体を知らないこの街の実験をしていた魔人の部下だろう。
「”………”」
我が君が動かれるほどでは無いと判断して、命令よりも先にこの者らの駆除をする事にした。
そろそろこの街の話は終わる予定だけどどうかな?




