呼ばれる名誉
魔族だよ全員集合
第53話 呼ばれる名誉
話は少し前に遡る。
勇者をうまく先導して廃工場に見せかけた実験場に案内したのはいいが、勇者一人に捕らえられた人間を救出させるのは大変だろうし、時間もない。
それに、解決してから、魔族がどうなるかと言うのが心配だった。
そこで、
「”来なさい。リムクライン”」
と、今の段階で使える手駒は少ない。ので、魔王特権で結界内部に魔人を召喚したのだ。
「”お呼びですか。我が君”」
………おかしいな。山羊の魔人のはずなのに、その呼ばれて嬉しそうにしている様は、犬を連想させる。
山羊の尻尾が強く振られているのも原因の一つか。
「”今から、勇者が騒ぎを起こすから、その騒ぎの間にここで捕らわれている魔族と人間をひっそりと開放せよ”」
「”人間もですか?”」
あっ、不満そうだ。
「”人間に一人。私のお気に入りが居る。それだけ助けると後々支障が出るだろう”」
それゆえの全員だ。人間が気に入らないのは仕方ないが、私のお気に入りなら別だろう。
「”分かりました”」
一瞬で納得した。
「”そうか。頼んだぞ。リムクライン”」
「”はい!!”」
誇らしげに答えて消える気配。
「”アカネ”」
私の使える手札は本当に少ないが、かといって増やすのにも時間がかかる。
アカネは返事こそしないが頭を下げて足元に来る。
「”勇者の案内が終わったら幻覚で街を混乱させろ”」
そのどさくさで魔族を逃がす。
そこまで告げて、視線を上に向ける。
「”という事だ。受け入れの用意をしておけ”」
遠方に居るだろうが、じっとこちらの様子を伺っているだろう存在に向かって話し掛ける。
返事は来ない。当然か。距離もあるし、結界もある。
「”分かったか。フェルテオーヴァ”」
名を呼ぶと、
「”年寄りをこき使うのですね”」
酷いお方じゃだと結界を通して返事が返ってくる。
「”先に利用しようとした者が何を言う”」
この街に来るように先導したのはお前だ。そのつもりだっただろう。
鼻で笑うと、
「”参りました”」
降参です。と返事と共に魔族にしか分からない結界に穴が出来上がる。
「さてと」
茶番はそろそろ終わりにしよう。そのためには、私にしか出来ない事を終わらせないと。
「………」
城壁の前。そこには助けを求める声。殺してくれと懇願する声。諦めてしまった声。多種多様な魂の叫びが支配して、聞いている内にノイローゼになりそうだ。
「”私の大切な眷属よ”」
柔らかい声にしたつもりだが成功しただろうか。
「”私の声を聞く者達。私はそなた達を救う”」
魔王に救われる人間の魂には詫びておこう。うん。
「”そなたたちの魂に祝福を。癒しを”」
肉体が変貌しても囚われ続けた魂を開放するために、歌うように唱える。
「”行くべき場所に行くといい”」
そして、望むのなら再び私の眷属となりなさい。
その言葉が引き金で、魂の中にあった感情も壊れかけ、狂いかけだったのを自由にして開放する。
「”よし”」
ここにあるのはただの城壁。もはや魔族を捕らえる檻ではない。
「”この地に囚われている魔族よ。我が名を持って、偽りの名。形ばかりの束縛から自由になるといい。人によって支配された者よ人に悟られずにこの地から逃げろ”」
その時人の耳に届かないが歓声が上がる。だが、
「………シヅキ?」
何かに気付いて焦っているシヅキの思念を確かに感じた。
クー 「呼ばれなかった…」




