解き放たれた心
真緒様無双
第44話 解き放たれた心
半魔の彼女は魔族にしては睡眠も食事もとるが人間よりも短い。そのため、朝寝たのに昼には目が覚める。
(ああ。今日も聞こえる)
今日は恋の歌。
大切な人に心を見せたい。でも見せてはあげられないという言葉に頷いてしまう。
「”私も見せてあげたい…”」
ぼそりと呟いてしまう。
「”ふ~ん。やっぱ。両想いか”」
何故か声がしたと思ったら窓から入ってくる――ここ二階――少女。
「”こんにちは”」
どこから入ってきたのか尋ねようとしたが、その口は恐怖で動かない。
ただの人間。………じゃない。
「”……貴方は?”」
「”名前”」
「”はい?”」
「”貴方の名は”」
名を訪ねられて言葉が詰まる。
「”………いい名じゃないのね”」
「”………………淫乱のごく潰しと付けられました”」
その名を言いたくなかった。
「”名を持って、本質を歪め、弱体化させる。……半魔は余計影響あるでしょう”」
「”………”」
その通りだったので無言になってしまう。
半魔は、人間でもあるが、人間としての価値も尊厳もない状態なので人間として生きていくには生活基盤すらない。魔族として弱いが人間としての基盤があれば生きていけた筈の強みが潰されたのだ。
(………せめて外見が人間に完全によっていればましだったかもしれないが)
このウサギの耳では隠せないだろう。どちらにしても自由の無い自分ではかなわない夢ではあるが、「………」
足には逃亡防止の足枷。名の束縛。自由は格子の外を見るだけ――。
「”………シヅキ”」
少女は告げる。告げる声に何か強い力が宿っている。
「”………”」
「”上書きをする。シヅキ。紫の月。で、柴月。シヅキ”」
それは圧倒的な力。あがらう事を許さない。絶対者のそれ。
力はまるで水を吸い上げるスポンジのように知らぬ間に身体の…精神を支配していく。そして、
ばりん
何かが壊れる音。
それがずっと自分を支配し続け、見えない鎖となっていた名の束縛だと気付き、涙が零れる。
……身体と言うか心が軽い。常に自分の足を封じていた足枷も名の束縛さえなければいつでも外せる飾りにしか思えない。
「”外せるが今は外せるのを隠した方がいい”」
静かに告げられる絶対者の声。
「”私は聞きたい事があったからあなたに名を与えた。意味は分かるね?”」
名の束縛から外されたとたん。視界が広がり今まで入って来なかった情報が染み込んでくる。
「”我が君…”」
そう呼んでいいものだろうが半魔の自分が、同族に要らない者と切り捨てられた自分が。
「”………あなたのモノになるのですか”」
信じられない。どちらもいらないと言うのかと思っていたのに、この方は、
「”どちらかと言えば、眷属。魔族から聞きたい。この街はどうなっている”」
私と言う半端者を受け入れて、眷属として招いてくれようとしているなんて……。
涙が零れた。この方が命じるなら何でもしよう。………恋心を捨てろと言われたら出来ないかもしれないが……。今言われたのは、この街の事だ。この街…。
「”……この街の何を知りたいのですか?”」
「”……まあ、いろいろ”」
言葉を濁され、言いたくない事かと納得したが、
「”私の意に従わない事をすろ者に効果的なお仕置きしないとな”」
という不気味な言葉。
「”我が君……。私は情報収集に長けた一族。名の束縛で封じられていましたが本質を取り戻した今…”」
「”ああ。そういう打算もあったから近付いた”」
今まで、名で封じられていたが自分が会った人間は全て覚えている。話した内容も全て古代語ではないから、魔族に人の言葉は分からないから、もし、言おうとしたら名の束縛で消してしまえばいいという油断があったのだが名の束縛がない今それを告げる事に迷いはない。
「”何なりとお使いください”」
「”……礼はあの人間に直接言いなさい。あの者を気に入ったからお前を使う事にした”」
……殺さないといけないと諦めていた心。それが解き放たれた事に至上の喜びを覚えた。
そして信者が増える




