人間達の憶測(その2)
主人公出ません
魔王が倒されたのを人々が知ったのは、四方を囲んでいた霧が一瞬にして消え去ったからだった。
浅瀬しか行けなかった海――。地面の向こうに見える山。森。
人々は今まで霧のせいで行く事の出来なかった世界に足を入れた。
そこには自分達が知らない物が溢れていた――。
「最初は魔王が倒された。幸福を噛みしめていました」
静かに告げる王の表情は硬く、青ざめている。
「どうしたのですか…?」
勇者の問いかけに迷うように視線を動かし、
「魔王は、自分の死で発動する呪いをかけたのです」
魔王の居ない魔物は弱体化して今まで実力のある兵士か冒険者しか倒せなかったのが弱い部類の魔物――魔獣は猟師でも捕らえられ、食卓に出るようになった。
だが、それも一か月だけだった。
「始まりは、今まで霧に囲まれていたこの世界の作物が一斉に枯れだしたのです」
世界の中心に魔王城があり、四方は霧に覆われていたが、多少の不作豊作の誤差程度で、餓死するという言葉自体なかった中。初の餓死者が、魔王城の近くの街で出たのだった。
「……」
霧の近くにあった国は霧の外にあった見た事の無い植物や動物。海産物で餓死の危険は減らされたがそれでも万全ではない。
一方、魔王城の近くの街や国は代わりとなる食糧は手に入らない。
「食べ物を分けてくれ!!」
魔王城の近くの街や国はすぐに他の地域に助けを求めた。だが、
「私達もこれでギリギリなんだ。貴方達に分ける分はない」
返ってきたのはこんな言葉。返事もなく沈黙している国もあった。
「頼む。金なら幾らでも払う」
「仕方ないですね」
そこから中枢と端で貧富の差が誕生した。それでも餓死者は減らず。不作もまた悪化の糸を辿っていきついにはギリギリだった食糧を渡してしまった国にも餓死者は現れだした。
……今まで魔王という共通の敵がいたのでまとまっていた各国が不協和音を奏でてばらばらになっていった。
「それでもまだ不作が解決すれば収まると楽観的な考えを私を含む多くのものは考えていました」
「……まだ、何か?」
「侵略者です。霧の外は楽園じゃなかった」
魔王が生きていた頃は世界というのは霧の内側だけだった。
勇者のお陰で世界は広がり、魔物に怯える事も無くなった。
「あれっ?」
「どうした?」
「今、何か…」
海に浮かぶ屋敷――最初それを見つけた者は役人に伝えた。半信半疑で見に行った役人はそれを巨大な船だと上司に報告に走った。
冤罪だ by真緒様