友情
いい人間って居ないかな
第36話 友情
それは、古代文明の言語に訳された歌だった。
「……どこから?」
アカネを抱いて、その歌に聞き入る。
「新庄さん?」
勇者が近くに居るのを忘れさせてくれるような……時折言葉がおかしくなるが、しっかりとした古代言語。
「湯島君。少し別行動させて」
お願いすると、何でかほっとしたように、
「いいよ。宿とかは分かりやすい様に目印着けておくから」
勇者の返事に分かったと頷いて、その歌の方に向かう。
「”友よ 私の為に剣を取らないで欲しい 私は貴方の幸せを祈りこの結果になった 私の死を嘆くのなら私の愛てる” えっと、”愛てる…”」
「そこは、”愛してる”か”大切な”と訳した方が綺麗になる」
狭い路地の片隅で歌っている男性に声を掛ける。
「あっ、そうか。それでいつも笑われるのか」
男性の傍には魔族がたくさんいる。隷属でも敵対でもなく寛いで見える。
「あっ……こっ、これは!?」
慌てたようにとっさに魔獣達を庇うしぐさ。そして、
「”我が君。この人間は!!”」
魔族達も彼を庇うしぐさ。
「……古代文明の言語が聞こえたから来てみたけど歌は知らない物だね」
魔族を気にしてない。この者に何かするつもりがない。言外に伝える。
「………あっ、ああ。お芝居で使われるものなんだ」
お芝居? オペラとかミュージカルみたいなものかな。
「どんなもの?」
友と言うのが入っていたけど、舞台は恋愛ものという偏見があった。
「……それは」
「”古代文明語で、この子達も聞きたいみたいだし”」
興味深々という感じで男性を見ている魔族達。その視線に気付いて、
「えっと、”戦争に行った友人が亡くなったと報告を受けて、……”主人公はなんて言うのかな?」
「”主人公”」
分からない単語は教える。
「”主人公が敵を討ちに行こうとするのをユーレイ……”」
「”幽霊の方が発音が綺麗かな”」
「”幽霊が現れて主人公を止めるんだ”」
と舞台の内容を現代語と古代文明語。時折、魔族が訪ねてくるのに答えてと過ごしていたら、気が付くと大分時間が立っていて、日が暮れてきた。
「ああ。もうこんな時間か……」
男性は困ったように笑う。
「……もしかして何か予定でも」
邪魔してしまったかと不安になるが、
「いえ…楽しくて時を忘れてました」
グ―――
タイミング良く、おなかが鳴る音がする。
まいったなと恥ずかしそうに笑う男性についこちらも笑ってしまう。
「朝食べたきりだったからな…」
これでもビスケット五枚食べれたのにと小さく独り言が聞こえる。
「ビスケットだと身体持ちませんよ」
つい注意してしまうが、
「そうですね。……貧乏なので一番削れるところで削ってしまうんですよ」
「……」
この人と大丈夫かなと心配になってしまう。
「貴方のおかげで、魔獣達の言語が古代の物だと確信できました」
「………出来て無かったのですか?」
魔獣達と交流していたのに、
「……私の一方的なものですよ。貴方のおかげで話も出来ました」
ありがとうございます。と告げられ、
「私の名はシトラと言います」
男性――シトラは名乗る。
「……名は余程の事がないと告げてはいけないのじゃ…」
「敬意ある人。信頼できる人にならいいんですよ。それに本名とは限りませんし」
軽口のような発言だが、本名であるのは感じ取れる。
「……私は、真緒です。新庄真緒。こちらでは、マオ・シンジョウの方が正しいかな」
「だ、ダメだよ。本名教えちゃ!!」
名乗ると先にそっちが名乗ったのに慌てるシトラ。
面白い人だ。
「”我が君…”」
「”お前達が庇いたい気持ちは理解できた”」
シトラに聞こえないように――シトラは”我が君”という言語は分からないみたいだ――告げると、
「魔族達が貴方に礼を伝えたいと」
と告げてシトラのを見る。
やせ細っている身体。着ている服も質素。そういう服の趣味の人もいるだろうけど。先の話からしたら金欠でそちらに回すお金がない気がする。
道端に落ちている石を拾い、
「これで食べ物を買ってください」
と渡すのは、さっき拾った石を魔力で作り変えた魔石。
「明日も来るので、食べたかどうか確認しますね」
一方的に約束してその場を去る。
……本当に来れるかは勇者次第なのをその時は失念していた。
文章中で真緒様が名前呼びするキャラは少ない




