魔と人の境目
保身とジレンマ
第35話 魔と人の境目
舞台の上では、私の庇護する対象である獣人が、魔獣が、名を奪われ、別の名を与えられた事で人の目には――魔力がある者なら分かるかもしれないが――肉体魔力の質が作り替えられ、変質していく。
流石に魔人はこの場に居ないが次々と同朋が悲鳴をあがているのを助ける事も出来ず、ただ見ているだけ。
苦痛を伴うそれは、本来なら格上の者に認識してもらった事での進化であるはずが、これは退化だ。次々とその媒介とやれを首に着けられたり、身体に埋め込まれたりして、名を付けた人間に引っ張られ連れて行かれ、抵抗しようとすると無理やり与えられた名によって行動を制限される。
名の力を逆手に取った。束縛の方法だ。
「新庄さん? もう終わりみたいだよ」
勇者が声を掛けてきて、舞台に人も魔族も居なくなり、それを見物していた者達がばらばらと帰って行く。屈辱な時間が終了したのに気付く。
「新庄さん?」
「……まるで奴隷を売るみたいだった」
言うつもりはなかった。悔しくて、悔しくて、力があるのに、助け出せるのにそれを見ている事しか出来なくて……。
そんな自分が許せなくて。
(なにが王だ。無いが魔族を守る者だ。自身の保身に走って何も出来て無いじゃないか)
「何言ってんの? 魚の競りとかもああいう物でしょう?」
勇者の言葉に殺意が湧く。
そして、湧いた後に、
「そうだったね。ごめん」
勇者に分かるわけがなかった。
彼は、人間の勇者であって、魔族の……魔物に心があるなんて考えてはない。
「……新庄さん?」
私はどこかで甘い考えをしていたようだ。
「なんでもない」
ずっと肩に乗っていたアカネを撫でる。
「………アカネ」
魔獣と言うだけで危険だが、この街なら少しは誤魔化せるか。
「少し不自由になるけど」
召喚された時に持ってきていた日用品の中にハンカチがあった。もちろん綺麗に洗ってあるそれをアカネの首に巻き、
「これで良し」
あんな風に名を奪われて自由を失わせれないので所有者が居ると思わせようと考えた方法だ。
きゅううう
嬉しそうに鳴いて、クンカクンカしているアカネを微笑ましく見てしまう。
「私の傍に居れば大丈夫だと思うけど、外しちゃだめだよ」
「……新庄さんは」
勇者が何かを呟く、いや、何かと言うより。
「湯島君?」
「いや…、何でもないよ」
慌てて首を振る勇者が一瞬。
魔物に心でもあるような言い方するね。
と呟いたような気がした。
人間のいいところだしたいな




