名を奪われるという事
街に入ったよ
第34話 名を奪われるという事
町は賑わっていた。
「すごい!!」
興奮する勇者に無理もないと思う。
魔族が居た。
護衛のように偉い人に付き添っているモノ。
子供と遊んでいるモノ。
馬みたいに荷物を載せているモノもいる。
「すごいな。こんな風に共存できるなら人が魔物に怯えなくて済むのに」
勇者の声に三人もその平和に目を細めてる。
「お嬢さん達この街は初めてかい? なら、ちょうどいいものが見れるよ」
たまたま通りかかった町の人が話しかけてくる。
「「「いいもの!?」」」
「この街の名物とか…」
誘われて四人は向かう。…こっそりはぐれようとしたのがばれて同じように私も連れて行かれる。
そこには人だかりが出来ている。
「何の催しなんでしょう?」
人ごみに流されながら巫女姫が呟き、
「こんなに人が多いと見えないよ~」
と魔法少女が泣きそうになっている。
「パイシャン」
勇者が魔法少女を持ち上げる。
「……」
おい、魔法少女。ロマンスを期待して顔を赤らめてるけど、傍から見るとお兄ちゃんに抱っこされてる妹だぞ。普段散々突っ掛かってくる二人も警戒する必要無しって判断してるけど。
そんなこんなしていたら、はるか前方。お立ち台と言うか舞台のような台があり、ジャラジャラと鎖で動きを封じられた魔族――獣人が連れてこられる。
「レディース&ジェントルメン。お待たせしました」
燕尾服に似た服を着ている男が舞台に上がり、芝居掛かった挨拶をすろ。
「……」
これ、自動翻訳されているけど、実際に言ってたら異世界感壊れそうだな。いや、それよりも。
「おせ~ぞ!!」
「待ってたんだからな!!」
「早くしろ!!」
野次馬の声に司会の男は、
「おお、怖い怖い」
と本当に怖がっているのかはだはだ疑問に思うと、
「では、初めての方もいつも参られている方もお手を拝借、見て拝借」
「能書きはいいから早くしろ!!」
そんなヤジが飛ぶ。
「皆様。せっかちですね」
司会の男は呆れたように――もちろん演技だ――肩をすくめる様におどけ、
「では、オークションを開始します」
「「「おおおおおおっ!!」」」
湧き上がる歓声。
「では、――から」
数字を挙げられてどんどん数が上がってくる。そして、
「――で落札。おめでとうございます」
司会の男の声が響き、落札した男が舞台に上がる。
「これがやりたかったんだよな」
落札した者は手に何かを受け取ると動きを封じられた獣人の額にそれをあて、
「この媒介を通して名を剥奪する。剥奪された元。今名を書き換える。お前の名は、〈うすのろのごみ〉だ」
宣言と共に獣人が暴れるが、やがて暴れる力も失って動きを止める。
「……」
今のは、魔族の名を書き換え。
「……そんな」
名は魔族の本質。それを奪われて書き換えられて、その名が魔族の誇りを汚していくのなら、それは、
「”魔族の弱体化…”」
許せない。何が共存だ。これは、魔族の奴隷化だ。
怒りでこの街を破壊しようとしてしまいそうになる自分を今はその時ではないと冷静に耐えるしかなかった。
お前は私を怒らせた




