城壁
お帰りリム
第33話 城壁
「………」
その城壁を見て最初に感じたのは、近付きたくない。だった。
「すごい城壁」
「これなら防衛も安心ですね」
わいわい騒いでる勇者達を横目に、
(なにこれ……?)
クルシイ タスケテ
イタイ イタイ
モウヤメテ ツライヨ
イキタクナイ モウ
モウコロシテ
それは悲鳴。魂に直接訴えてくる言葉。
とっさに耳を塞ぐ。
「新庄さん?」
どうしたの? 勇者が訪ねてくる。
「………」
最近こればかりだ。
私が何かするとどうしたのか。とか、大丈夫とか。
(そのたびに女性陣の視線が痛いんですけど)
ついついそんな事を突っ込んでしまうが、それよりも、
「……ここ入るの?」
入りたくない。
ここは嘆きと怨嗟と絶望が籠もっている。
「? そうだけど?」
どうかした。
「気付かないの?」
意味が分からないと首を傾げられる。
「この街は……」
言いかけて止まる。
「おや、外の人かい?」
第三者。……気配が感じられなかった。
「あの………」
それは勇者も同じなのか。動揺してる。
「ああ。驚かせましたか」
気のよさそうな商人。
「これが居たからですかね」
その商人の近くには馬車。………あんな大きな馬車すら気付かないなんて、いろいろとヤバいかもと不安になると、
「今日仕入れたモノが上質で、いろいろ便利なんですよ」
と見せられたのは、魔獣。
周りの状況を見て、変装してしまう――カメレオンみたいな能力を与えた。
「………」
それが今。馬車の中で暴れ、その都度お仕置きのように傷を作る。
「魔獣ですよね?」
勇者も信じられないと呟く。魔族の中では弱い部類の魔獣でも倒すのは至難の業。それがどう見ても商人が捕らえたばかりなのを連れているのだ。
商人しか見えないけど実は護衛とかが腕利きの冒険者なのかもしれない。
「ああ、今日の目玉商品だ。お兄さん運がいいね。この街名物が見られるよ」
商人はそれだけ教えてくれると街に入っていく。もちろん馬車も一緒だ。
「勇者。早く入ろうよ♡」
魔法少女がぐいぐいと勇者の腕に手を回して甘えている。
「小娘。なんて破廉恥な!! じゃなくて、勇者が身動き取れないでしょう!!」
「へへ~ん。羨ましいくせに♪」
巫女が文句を言うとべえ~と舌を出す魔法少女。
「勇者。いやなら言えばいいんだぞ」
女騎士が忠告するのは、魔法少女と張り合って巫女が開いてる方の腕に手を回して、さり気無く胸を押してているからだ。
………完全に出遅れたんだな。
「いや、気にならないよ」
……胸をあてられて鼻の下が伸びてるな。
こちらが白い目で見ていると流石の勇者も空気を読んで、
「さて、中に入ろうか」
と両腕に女性をぶら下げて進んでいく。
「………ぶちのめしたくなるな」
あれかな。リア充死ねというやつか。
「リア獣なら可愛がるのに」
ついついそんな事を思ってしまうと。
「………やはりもふもふの方がいいですか?」
と泣きそうん顔で現れる存在。
私好みの綺麗系。疎の綺麗系が目に涙を溜めている。
きゅん
「”いや、お前はそれでいい。…人の使える言語を覚えたのか? リムクライン”」
独り言は完全に今の人の使う代物だったし、それに対してのリムクラインの呟きも今の言葉だ。
「”はい。情報を手に入れるのに有効だと判断しました”」
賢いな。
「”そうか。偉いな”」
よしよしと頭を撫でると恥ずかしそうにリムクラインが顔を赤らめる。
「”我が君。あそこは、わたくしでは入れません”」
「”やはりか…”」
人には分からない。
「”あの壁に同朋が生き埋めにされているな”」
分かるのは魔族のみ。
「”……中に入らないと分からないな。調べてくる。リムはもしもの時動けるようにしておけ”」
「”御意”」
頭を下げて来るリムクラインを横目に、
「鬼が出るか。蛇が出るか」
と呟くのだった。
さてさて街の中は……




