探り合い
気が付いたら31話になっていた。切り番で一人で虚しくお祝いしようと思ったのに
第31話 探り合い
きゅう
何かの鳴き声…。
「……アカネ」
自分が名を与えた事で助かった一匹の魔獣。
宿の一室。ベットの中。
「……朝なんだ」
ぐっすり寝ていた自分に内心驚いてる。
魔獣にアカネに名を与えた事で何か疑われないかと警戒していた。
そう、警戒していたのだ。
(なんでぐっすり寝てたのよ!! 自分の神経が信じられない!!)
普通ばれてないかびくびくして眠れないはずだよね。
と誰に訪ねているのか分からない状態で――まあ、答えてくれるのは自分だけだが――一人ボケ突っ込みをしていると心配そうに自分を見つめる一対の目に気付く、
「アカネ…?」
大丈夫? と首を傾げられるときゅんというか萌えを感じてしまう。
って、萌えてる場合じゃなかった。
「アカネ。私といると危険だから元気になったから好きなところに…」
嫌々と頭を動かされ、きゅんと再び萌えが襲ってくる。
(アカネ。恐ろしい子…)
もうダメ、私は萌えで殺される。
「って、ぐずぐずしている場合じゃないね」
気持ちの影響かいつもよりゆっくりゆっくりに着替えをすまして、食堂に向かう。
「おはよう」
湯島が挨拶をしてくると三人は外面たっぷりのにこやかに挨拶してくる。
………………いつもの光景。
でも、
(こちらの動き一つ一つ。探るような視線。そして、不自然にアカネを見ない)
こちらの出方を窺っている。
「湯島君。アカネもご飯一緒でいいかな?」
だけど、気付いてない振りをする。事の重大さに気付いてない巻き込まれただけの女子高生。
「あっ、うっ、うん。……新庄さん!!」
頷きかけたけど、私が言った言動の意味を悟り、慌てたように、
「君がアカネって名付けた…」
くわっ
アカネが威嚇する。
「どうしたの?」
よしよしとアカネを撫でる。
………アカネが威嚇した理由も知っているが、知らないというように。
「駄目だよ。急に威嚇したら。湯島君ごめんね」
アカネを叱り、勇者に謝る。
「あ…気にしないで」
三人に庇われる形になっている勇者はそれしか言えなかったのだろう。そう返してくるのを横目に、
「アカネ。ダメだよ。びっくりさせちゃ」
と本当に気付いてないというように叱り付け、
(ごめんね。アカネ)
という意味合いを持って、名をあえて呼んでいる。
「魔獣の名をむやみに呼んではいけません」
と勇者を案じる三人。巫女が私と勇者。両方を叱り付ける。
「ふぇ!?」
意味が分からないと首を傾げ、
「………名前を呼んではいけないのは人に向けてじゃなかったですか。えっと、巫女さん」
この子は動物ですよ。
魔獣というものを知らないというように――まあ、実際。この世界の知識を教わってないので――告げると、
「名というのは力の象徴だ。下手をすると相手の命運を握ってしまうと思え」
「それは魔物なの♪ とっても危険だから余計呼んだらダメ♪」
流石に説明する気になったのか。でも、遅かった。
「……魔物って、アカネはいい子だよ」
ギュッとアカネを庇うように抱き寄せる。
「リジー。新庄さんは…」
「ええ。そうみたいですね…」
「教えなかったのが裏目に出たみたいだ」
「巻き込んだから余計なトラブルまで伝えたくない。……勇者が決めたのがこうなったんだね」
…………取り敢えず、今は回避できたみたいだけど、情報が来なかったのはお前のせいか勇者!!
取り敢えず危険は一応回避したと判断して、
「”我が君。それくらいなら私の府が何とかできましたよ”」
とフェルテオーヴァに言われてその手があったかと悔やむのは、それからすぐの事だった。
真緒様切羽詰まって考えてるけど、貴方の居る所は貴方の部下が居る所ですよ




