勇者に託された者
託されたというか振り回されているという方が正しいか……
幕間 勇者に託された者
「……これ本当に全員に見せてるんだよね」
つい、止めた方が良かったんじゃないと言いたくなった自分は悪くない。
「これ位の恐怖体験がないと人は考えを改めない」
近くに控えていたシヅキが声を掛けてくる。
「そうだよね……。そういうものだよね」
認めたくないけど、元人間だから納得をしてしまう。
「でも、それを言い出すのが、勇者と言うのが……」
考えを改めるとかいろいろあるけど、魔族になってから自分の常識がひっくり返って混乱する。
「それで、人々の反応は?」
シトラが尋ねる。
その視線の先には――。
「順調ですぞ」
フェルテオーヴァ。
魔人の村を作って、、弱い魔族を守っていた老人はその様子を、多くの部下を通して見ている。
「まず、恐慌状態の人々が次々と神殿の破壊。そこで神殿が多く隠していた歴史書が偶然にもきれいな状態で発見されました。そこにたまたま旧文明に詳しい学者が居て、その内容を解読する」
「……偶然とかたまたまと言うのが気になるけどね」
苦笑いを浮かべるが、それはそう言うものだと受け入れる。
「そして、それによってかつての魔族と人間の関係を知らされて、後なぜか細かく書かれてあった聖人の真実が白日の下晒されました」
「うん。明らかな情報操作だね」
まあ、偽りではない。
拡大解釈されるだけだ。
「混乱は…?」
「もうしばらく続きますが、それも収まるでしょう。こちらには魔王の生贄にされた精霊王の巫女が居ますので」
「ああ、人間の王女だしね」
民を落ち着かせるうってつけの人物だな。
「こちらには龍も居ます。龍の背に乗って国中回ってもらえれば……」
魔族――正式には他所の地域の――の背に乗り、民を落ち着かせる精霊王に選ばれた王女。
「新たな聖女の完成です」
「……巫女さんは?」
神の力を――不本意ながら――手に入れてしまった人物の名をあげると、
「彼女は表に出てはいけないでしょう。ユスティ教の旗印にされてしまいますので」
今は混乱が続いてユスティ教が不利だが、落ち着いたら回復しようとするだろう。
その時、ちょうどいい傀儡があの巫女だ。
元々ユスティ教の巫女だ。
本人が望む望まない関係なく、聖女と言って祭り上げられるだろう。
……実際に聖女の力があるとかないとか関係なく――。
――精霊王の選んだ聖女に対抗するため。
「……人間って大変だ」
「元人間が何をおっしゃるのやら」
「元人間だからだよ」
そう部下になったばかりの魔人に言葉を返して、
「じゃあ、そろそろ覚悟を決めますか」
告げて、それに視線をやる。
空の玉座。
主をずっと待っていた。資格の無い者が座ると魔力を吸い取る呪いの椅子。
「改良して常時座りぱなしじゃなくても結界の維持が出来るようにしたんだよね」
「ええ…。それだとあまりにも不便だからと……」
「それも魔族の欲望での進化だよね。欲さえあればなんでも出来るんじゃない?」
そう返すと、
「そこまでの執念を持った欲ではないと無理ですがな」
と、前王を知っている魔人は説明した。
フェルテオーヴァ久しぶり




