仮死
神への挑戦
第257話 仮死
横たわるのは自分の身体。
『見事に魔人になってるな』
姿を確認する。
『新庄さん…』
近くには勇者――同じ様に体が横たわっている。
両者の身体に大量のタンコブがあるのは、見なかった事にしよう……。
――殺してくれと言って死のうとしたのにどちらも本気で殺せなかった結果がこれだけど。
(霊体に成ったらタンコブが無くて良かったよ)
それに関しては安堵する。
「二人とも指に巻いた糸に気を付けて。それが切れたら本当に死ぬから」
冥王が忠告してくる。
左手の薬指には赤い糸。
ここでボケて、きゃっ、運命の相手に繋がってるのね。とか、言ってみようかと思ったけど、冥王が怒って人の身体で遊びそうだから辞めておく。
「早く戻ってこないと僕が君らの身体で実験するから」
冥王の脅し。
(こいつなら実際にやりかねないな)
(勇者の身体って通常の人とどう違うかなって解剖しそうだ……)
勇者の心の声が聞こえた気がする。
勇者にも心の声が届いた気がする。
『……』
『………』
目を合わせて、日本人のいわゆる誤魔化す笑いを浮かべる。
『じゃあ…行こうか……』
勇者に告げる。
『あっ、う…うん』
不安げに付いてこようとする勇者。
『怖いのなら。身体に戻っていいんだよ』
無理しなくていい。
元々一人で行くつもりだったのだ。
『だっ、大丈夫!!』
慌てて告げてくると前に出る。まるで俺が守るっていう態度だけど。……守られる立場じゃないんだけどな。まあ、弱体化したけど。これでも魔王なんだから。
そんな事を考えて、そちらを見る。
――今、資格を得た者にしか見えない階段が出現している。
神になるためのまさしく登竜門。
『……』
魂の状態の自分の姿はリムの魔力を取り込んだ後の姿だ。
魂の魔力と言うのはどう作用しているのか分からないけど、この姿をしているという事は、
(力を貸してくれるよね。リムクライン)
部下の力をあてにする出来の悪い主君だけど。
『お前の力を頼りにしてる』
今の近くにいるかもしれない存在――何せ魂になった段階で冥王の支配下に置かれるのだ。冥王がこっそり魂を自分の近くに置いていてもおかしくない。
勇者の仲間達は霊体になったこちらは見えて無い様だ。
――てっきり、巫女辺りのは見えていると思ったのに。
「人が見える霊体は大概未練があったり伝えたい事がある魂が殆どだし、君らみたいな仮死状態でこれから神になるものは見えないよ」
冥王の声でこちらかなとこちらを見るが視線は合ってない。
『なるほど……』
そういう物なんだと答えて。
そっと。段に登る。
『――いいの?』
階段の途中に泣きそうな…不安そうな……友人の姿。
『迎えに来てくれたんだね』
生贄の勇者。生贄の女神ラシェル。
『……勇者も貴方もこの世界から去っていったら巻き込まれなくなるのに』
案じてくれる。心配してくれる。
神にも味方が居る。
『俺は《勇者》ですから』
『私は《魔王》だったし』
二人の声が重なる。
そういうところは考えが同じなのはやはり対の勇者と魔王と言う関係だからか。
『……私は表立って味方できない』
すまなそうに顔を歪める。
『――分かってる』
辛い立場だろうなと言うのは予想付く。
『居てくれるだけで励みになる事もあるから』
そう微笑んで告げると、
『相変わらず誑しだな』
誑しって……。
『そういうのは勇者の方でしょう』
絶対そういう補正はあると思うんだよね。
『いや、新庄さんも結構人誑しだと思うよ。――変態ホイホイだけど』
……嬉しくないな。
そんな軽口を言いながら、階段を上っていった。
勇者
魔王
共に神に進化した(?)




