覚悟と足掻き
彼らの戦いはここからだ。
○○先生の次回作にご期待ください。(笑)
第256話 覚悟と足掻き
「あっ…わっ…わわわっ……⁉」
魔法少女はその姿を見ただけで腰を抜かす。
「……………っ」
女騎士は逃げろと警告してくる本能に従いたくても足が竦んで動けなかった。
「…………神さ…っま」
巫女はその姿を認めると涙を流し止める事が出来なくなった。
「……ど」
王女はガタガタ震え、必死に近くの壁――ちなみにさっきまで肉塊がこびり付いていた壁――に捕まっていた。
圧倒的な力。
存在感。
神聖さ。
誰に告げられなくても分かる。
それらは《神》と呼ばれるモノだと。
「これが神………」
他の者に比べるとなぜか畏怖も恐怖も弱い自分に不思議そうに勇者が呟く。
この場で激しく動揺していないのは《魔王》または《勇者》のみ――。
「――わざわざ下界に来るとはね」
珍しい。
そう呟いてしまうと勇者がじっとこちらを見てくる。
「どうしたの?」
何かあったかと尋ねると、
「いや……、やっぱり神。何だよね」
確認してくる勇者に頷く。
「そう。神。――《高位の者》」
魔王や勇者と言う存在よりも格が上の魔王と勇者の名を縛れる存在達――。
彼ら――彼女も居るが――はこちらを見ない。
ただ司祭の姿を見て。
――あっけない
――まあ、こんなものでしょう
――暇潰しにはなった
それだけ告げると司祭の身体から力を回収する。
……力を回収?
「お前達がこれをさせたのか?」
司祭は自分の知っている中で異端だった。
人工的に神を作り。魔王になってない時から魔王に近い力を得て。
――この地域を操っていた。
彼らは応えない。
用が済んだとばかりに消えていく。
「俗世に興味がありません。か……」
冥王がそう言うものだよなと乾いた笑いを浮かべる。
「……神」
「――あれが勇者と魔王の成れの果て」
勇者に告げる。
「本当なら私もあれの仲間入りするはずだったんだよね」
あの子が居なかったらそうなっていただろう……。
「………」
勇者は絶句している。
「神なのに……」
小刻みに震えて巫女が口を開く。
「神が降臨なさった事は慶事なのに……わたくしは帰られた時ほっとしました」
居なくなって良かった。そう思わされた。
「ユスティ様では決してそんな事思わなかったのに…」
まあ、ユスティは本物じゃなかったからな。
「あの目は、こちらを見てなかったな」
女騎士が告げる。
ああ。鋭いな。
確かにそうだろう。
「高位の者からすれば人間なんて、水の中に居るプランクトンを見るようなものでしょうね」
顕微鏡を使用しないと見れない世界。
「ぷら……?」
「ああ。この世界にはプランクトンが居ないか」
居てもまだ発見されてないか。
「………」
それにしても。
「新庄さん?」
何かを察したようにこちらを見てくる勇者。
「何考えてるの?」
警戒している。
「――勇者」
それに答えず。
いや、ある意味答えか。
「勇者の剣で一思いに殺してくんない?」
生きたいと思った。
勇者にバレたら殺されると、殺されたくないと思った。
でも――。
「話をするには同じ土俵に立たないといけないみたいだから」
足掻いた。
生きたくて、行きたくて足掻いて足掻いて。
「この地域に宣言出したし、魔王は勇者に倒されないと」
あの時から覚悟は決めていた。
――殺される覚悟を。
「新庄さん……」
冗談だよね。
そう窺う声。眼差し。
「ああ。――安心していいよ。もう魔族だ」
人を殺すのには躊躇いがあるだろうけど、今の私なら大丈夫でしょう。
「殺せない!!」
叫ぶ声。
「以前とは違う。魔王を一方的に殺す理由もない!! 協力出来た。話も出来る。それで殺す理由なんてないだろう!!」
「――理由ならある」
断言。
「私は《魔王》として民を苦しめてきた相手に文句を言いに行くんだから」
慈悲深き獣の王。
その名のもと。私は自分の役目を果たす。
「――分かった」
「「「「勇者!!」」」
止める声。
「だけど、その理屈なら俺も行く」
そう告げる声。
「湯島君!!」
「――俺は勇者だ。民の希望。人々の憂いを晴らすのが役割だ。――魔王にそれを譲れるかよ!!」
「湯島君……」
迷いもなく言い切る勇者に、
「その言い回しもダサいよ」
それだけ返す。
「こんな時でも駄目だしするんだね……」
「いや、――分かった」
手を差し伸ばす。
「魔族の王として。――感謝する」
「人間の代表としてあなたにも感謝を」
――覚悟は決まった。
正直なところ勇者を一緒に連れて行くかどうかは最後まで迷った。




