空を望んだモノ
これで司祭は退場です
第255話 空を望んだモノ
どうしてこうなった――。
手を伸ばす。
あと少しで手に入るはずだったのに。
「我が君……」
見て下さい。私を。
「我が君…」
私を、ワタシだけを――。
――貧しい村で生まれた。
少し山を越えると他の魔王の領土になり、小競り合いによく巻き込まれた。
家族は生きるのに必死で今日生き永らえた事をいるかどうか分からない神に感謝する日々だった――。
それが変化したのは突然だった。
空から攻めてくる魔族に必死になって逃げていた。
家族も次々と襲われて、死を覚悟した。
だが――。
『無事か?』
白銀の髪。紫の瞳。狼の耳と尾を持つ美丈夫。
――この地を治める魔王《獣の王》だった。
獣の王はその力でたくさんいた魔族をたった一人で倒して退かせ、怪我人を連れてきた部下に手当てをさせて助けてくれた。
慈悲深い姿。
その素晴らしい佇まい。
魅せられた――。
心を奪われた。
だが、それと同時に自分はその人の元に近付けなかった。
常に多くの者に囲まれて、常に多くの部下が傍に居た。
戦闘中は周りを巻き込まないために離れていたが、それ以外はこの人の傍には絶えず人が居た。
あの方の目に触れたい――。
あの方の傍に行きたい――。
その他大勢では駄目だ。
あの方の唯一にならないと。
格下ではその他大勢になる。
対等でも数こそ少ないが唯一にはならない。
あの方の上でないと。
あの方が自分に対して叶わない相手だと認識しないと――。
そう、あの方にとって上位の者――神にならないと――。
欲望が強くする。
望みが力になる。
その望みが、
――魔族の段階を飛ばしていきなり神の候補になるなんて…
楽しげに笑う声がした。
――勇者でもないのかよ。珍しいな
興味深く見られてる気配がする。
姿は見えないのにたくさんの目に晒されているのを感じる。
観察されている。
面白がられている。
「誰ですか……?」
怖かった。
怖いが、怯えてはあの方の傍には居られないと耐える。
くすくす
ふふっ
ははは
たくさんの笑い声。
たくさんの視線。
そして――。
――私達は《高位の者》
一人の女性の声が降ってくる。
――貴方方が言う神
おそらくこの複数の声のまとめ役なのだろうその声の主は楽し気に。
――貴方の望み。叶えてあげる機会をあげるわ
あくまできっかけ。それをどう使うかは任せるわ。
その声と同時に巨大な力が沸き上がる。
あの方を超える力。
魔族でもなく、勇者でもない。神の力――。
そう、願いを叶える最高の力だったのに――。
力が消えていく。
「我が君………」
もう呼んでいるその声が掠れて届いてない。
「我が君…」
ワタシを見て下さい。
貴方に見てもらうために、貴方を苦しめた人間を懲らしめました。
貴方に見てもらうために貴方の傍の羽虫を消し去りました。
貴方の評判を落とした。
貴方を好いている者は皆貴方の傍に居ません。
これでワタシの事見てくれると思ったのに――。
これでワタシだけのものになってくれると思ったのに――。
対として倒した押される立場の勇者と協力関係になった。
部下は寄り添っている。
対等の魔王は力を貸してる。
神すら味方にいる――。
ワタシのモノにはならない――。
「そんな……」
信じたくない。
信じられない。
我が君。我が君。我が君。
「我が……」
「――もういいか」
我が君が不愉快そうにある方向を見ている。
――ええ。上出来よ
声がした。
女が居る。
男が居る。
動物姿。
鳥。
魚。
額に宝石を嵌めた者。
龍。
目がたくさんある者。
多くの存在。
多くの神――。
――とても楽しい見世物だったわ
その言葉と同時に笑う声。
でも、もうお終いね。
そう囁かれる。
「神……」
まさか。
ワタシの破滅すら見世物に――。
死にたくない。こんな望みをかなえてないのに神の玩具で終わるなんて――。
欲望が力になるのに力が湧いてこない。
嫌だ。嫌だ。
ワタシは――。
絶望を抱いて、魂は強制的にそこに引き込まれた。
――それがこの茶番劇の幕引き。だった。
高位の者は舞台に上がった。
勇者達は……。




