切り捨てる者。捨てられる者。
魔族は辛いよ
第24話 切り捨てる者。捨てられる者
そのエルフにとって、自分の主と同格は許せなかった。
それ故に、彼は、主の為にその地を攻める事を部下に命じた。
……それが、主の命令を無視する事でも、主のためだと勝手に決めつけていた。
だが、今になって。
「”なんで……”」
彼の元に部下が一人の人間に倒されたと報告が入ってくる。
「”こんなはずじゃ……”」
こうしてはいられない。早くあの雌を見付けないと……。
残った部下と共に集落を目指す。するとまるで天が自分達を、いや、主を味方するかの如く目の前に走って逃げていく雌を見つける。
「”あの雌と違う”」
だが、雌だ。あの雌を捕らえれば、目的の雌を見つけるのに有効だろうと判断すると、すぐに追いかける。
「******」
雌はこちらが追いかけているのに気付いた。
逃がすわけにはいかない。
雌は狙い通り集落を目指している。
「”私は、大人しくしたいだけだが、お前達は私の支配する地を荒らす気か”」
しかも、あの主の名を呼んだ雌をおびき寄せてくれた。
天が、高位の者が味方しているとしか思えない。
そのはずだ。
部下の犠牲を気にせずによくもまあ都合のよく思えるものだ。
エルフの心の声が届いてたらそう答えただろう。
だけど、幸か不幸か。彼女はその心の声を聴かなかった。
彼女は、魔王として、人の目の前で振るう事に迷い。無意識に自分の内面に一瞬だけ、逃げていた。
「”なら、喜べ、王自ら手を出す事をな”」
彼らは普段人間としての良識と魔族としての本能の間を潜り抜けているかの存在であれば手加減してもらえたかもしれないがしてもらう事も出来ず、一瞬で消滅させられる。
「”王………”」
自分の知っている王は、一人のみ。同格の者がいるとは知らされていたが、そんなのないのと同じだった。
「***」
音がして、主の名を呼んだ雌が一瞬そちらに気を取られる。そう、すっかり忘れていたが、近くにはあの雌がいる。自分が利用しようと考えていた雌が――。
こいつを人質にすれば……。
「”お前の部下の暴走だ。何とかしろ千華葉珠”」
主の名を躊躇いもなく呼ぶのに合わせて、襲おうとした雌の周辺に蔦が伸び、蕾が現れ、花が咲く。
「***!!」
雌も驚いている。
「”人使いが悪いわね。もてないわよ”」
花の一つが、雌の掌に乗る大きさの人の形に変化する。
目が見えない――盲目であり――、足は動かない――そんな機能がない。性別はどちらでもあるその存在。
「”主……”」
「”もててどうする?”」
「”ラーセルはいつもそうね。愛情はもらえるだけで幸せになるわよ。あげるともっと幸せになるけど。………ラーセルはあげるばかりだったわね”」
くすくす笑う声。
「”うるさい”」
不機嫌そうに告げる雌に主は笑う。
この場に二人しかいない。そんな和やかな雰囲気。
「”主…”」
呼びかけると、ちらりと、主は意識を向けてくる。だが、それだけ、
「*******(……あら、可愛い子ね)」
じっと自分を掌に載せて目を白黒させている雌に話し掛けたのだろう。雌は反応している。
「*******(私好みの子ね。もしかして、貴方の…)」
「”ああ、生贄だった子だ”」
「”なるほど、そんな感じね”」
知らない言語と知っている言語交互で交わされる言葉。
「”主!!”」
そこには自分が居ないものとされているのに気付いて、声を張り上げる。だが、
「”さっきから、気になったけど、それ。何?”」
とこちらに向かって告げる死刑勧告。
「”……お前の眷属だろう”」
「”私のいう事を聞かない子は、いらない”」
その言葉だけだった。それだけで……。
「えっ、消え…!?」
「消滅したか…」
分かり切っていた事だけど、
「”まだ、私の眷属だったんだね”」
楽し気に笑う声。
「千華…」
「可愛そうに私の支配を断ち切らなかったから、消えちゃって!!」
……人が魔族を主として認めないのはこれが理由の一つだろう。
魔族は、創造した魔王が存在を認めないと判断しただけで絶望し、消滅する。
それが今成されたのだった。
次回。王女様救済(!?)




