女神と巫女
タイトルの割りに出番ない巫女さん。
第228話 女神と巫女
生意気な娘……。
ユスティは溜め息を吐く。
最初は使いやすい娘だと思った。女神の言葉に乗せられて動いて牛耳易い娘だと――。
魔王討伐に志願して、勇者と共に向かい。魔王を倒した。
その後の英雄として崇められっぷりも見物だった。そこから落ちていくのを楽しみにしていた。
――そう、どんなに正義心の固まりでも、一度煽てられて崇められると初心を忘れる。
勇者の世界での言葉で表現すると天狗になるという言葉だったか。
実際天狗になった。
神殿関係者から称賛されて出世が見えてきて慢心した。
面白いぐらいに――。
やがて、結界が消え、惨事が起こると皆手の平を返しだした。
いや、そこまでいかないか。惨事の原因を皆知らない段階で勇者を呼び出したから。
……本当に愚かだ。
頼ってばかりで何ともしようとしない。面倒な事は勇者や魔王に押し付けて、それが当たり前になると恩も忘れる。
正直、あの司祭に名を縛られているのは不愉快だったが、甘んじて受け入れてたのは、利害が今のところ一致していたからだ。
わたくしも司祭も目的は違うが獣の王――魔王と言う存在の評判を失墜させる事を狙っていた。
そして、勇者と言う存在に倒されるのを望んでいた。
……まあ、そこから道は分かれたが。
正直。殺せたと――残虐で愚かで惨い殺され方を望んでいた。
あんなに愛していた民に裏切られ、恩も好意も無かった事にされ、恨まれて憎まれて、好意の証は民を苦しめるモノだと勘違いされて、憎まれて疎まれて、死を望まれて。
――いい気味だ。
復讐は叶った。あとは自分達で自分達の幸せを破壊した民が苦しむのを見るだけだ。
勇者が来なければそうなっただろう。勇者が魔王を連れてこなければ臨むままに進んだだろう。
だけど、勇者は魔王を連れてきた。魔族の勇者を――。
・・
しかも、その魔王の魂の中にあれが居た。
双子の片割れが。
なら、苦しめばいい。復讐のやり直しだ。
勇者と言う駒を魔王化させたら民も魔王も嘆くだろう。魔王はなんだかんだ言っても勇者を民を未だに守ろうとしていたから。なら、その勇者に裏切られたら?
だから、唆した。
魔王を魔物の勇者だと。
勇者の仲間に、特に自分を盲信的に崇める存在に囁いた。
新庄真緒という存在は脅威だと――。
河に叩き付けた様は見頃だった。あの信じたくないと絶望に沈んだ眼差しは忘れられない。
そう、これで今度こそ復讐は終わりだと思ったのに――。
それでも生きていた。
それでも、民も勇者も見捨てようとしなかった。
綺麗事の王。お人好しの王。
そう――、まさしく彼の者は王だ。
民を守り愛する。慈悲深い獣の王。
……………わたくしには与えられなかった愛情。
わたくしに不幸になれと呪いを掛けた王。
わたくしの分の愛情をあれにあげた王。
王よ。ご存知ですか?
わたくしの不幸は人に都合のいい存在の女神になった事ではなく。真名を握られた事ではなく。ただ、貴方と言う存在の愛情を得られなかった事が最大の不幸。
貴方を憎むしか逃げ道が無かった事。
あれを恨んでいる事だけが、自分の不幸を紛らわす事だった。
でも、
でも。
あれは消えた。
もういない。
わたくしは、どうすればいいのか分からない。どうなりたいのかも。
だからこそ。
――わたくしを盲信的に崇めていて、偽ると知りつつも縋るのか?
巫女と言う存在に興味が湧いた。
その選択に。
巫女さんで遊ぼう《ユスティ編》




