巫女と元魔王
女の子のターン
第221話 巫女と元魔王
すたすた
ビクビク
すたすたすた
ビクビクビク
「転移なんて使った事無かったからホント急に転移するんだな」
こうやって、使ってみると温度差とか気圧とかが急に変化すると身体も驚くよな。
「テキオー〇。必要だったかな……」
「テキオ……? ありゅじ?」
某青い猫の秘密道具を口にしていると近くのアカネが不思議そうに首を傾げる。
「あっちの世界の話」
正式にはあっちの世界の物語だけど。
「シトラが正式な魔王になったら作るように言っとこう」
と、思いついた事を押し付ける気満々でアカネと話をしているが、
「――そろそろ。近付いてきてもいいと思うけど」
くるっ
後ろを振り向いて声を掛ける。
大分離れた場所――それでも付いて来てくれているし鵜方は見える――にびくびくと怯えたようについてくる巫女の姿。
「そんなびくびくして取って食わないよ」
びくううううぅ
がくがく
「……ありゅじ。逆効果だと思うにょ」
「………そうみたいだね」
私=魔族=魔族は人を食うという構図が出来上がってるみたいだ。
「人を食べても美味しくないから食べないよ」
今は人間だし。第一、人を食べる魔族も確かに居たが、魔王だった頃にわざわざ人なんて食べていない
――魔獣だった頃や魔族になる前は食べてはいたが――人を食べる習慣があったら人一人では量が足りないだろうし。
魔王だった頃のご飯は、地面とか大気に流れる力を霞取っていたようなものだ。
そういや、人とかが多く死ぬと待機に漂う力は増すからと戦争をさせた魔王も居たようだ。――私はしないが。
戦争で死ぬよりも環境を整えて生き物を増やした方が力を貰いやすいと先輩魔王の冥王が教えてくれてたし――狩りをして殺すより飼いならした方が楽だよという言だったが――殺して食べてない。
「………信じられません」
まあ、そうだよね。
「わたくしは今。何を信じていいのかすら分からないのですから」
辛そうに、苦しそうに。漏らされた声。
「信じていた物が偽りだったから」
盲目的に神を信じていれば楽だった。神は絶対だと。だけど、知ってしまった。
「…………」
事実を知らされても魔族の策略だと盲信的に信じるだけの力もなく――そこまだ信仰力が無かったと言わればそれまで――間違っていたじゃあ、次はこちらを信じてみようなどと切り替えも出来ない。
柔軟のも頑なにもなれない――。
その迷いがいま彼女から《巫女》という価値観も奪っている。
「私よりも足手纏いかも……」
ぼそっ
巫女にバレないように呟く。
「……わたくしを恨まないんですか?」
恨む?
何言いだすんだ?
「はぁ?」
「偽善ぶらなくても分かってます。魔族の勇者とか神の敵とか足手纏いとかと散々言ってきたんですから恨まれて当然です」
「はぁ…」
「さぞや滑稽でしょうね。あんだけ神を信じれば力を得られると説いてきたわたくしが無力な足手纏いになって」
…………。
「貴方を追い詰めたのはわたくしです。勇者は同郷だから恨めなくてもわたくしは恨め……」
「――悲劇のヒロインぶりたいの⁉」
馬鹿馬鹿しい。
「あのさ。それ、自分が楽になりたいから言うだけでしょう!!」
そんなのに相手してられるか。
「何を…」
「――今はそれどころじゃないから」
相手にするの面倒だ。そう判断して巫女を無視する。どうせ後ろに居るんだし。相手にするのも面倒になった。
まあ、アカネには彼女の安全も気に掛けてもらっていた。
……言わないと巫女を無視しそうだったから。
この二人はそろそろ話し合いをさせたかった。




