裏切り
名前を覚えてもらえない魔族の嘆き
幕間 裏切り
「”あそこを攻めるのはやめる”」
そう宣言するのは絶対なる。
「”主?”」
意味が分からない。
「”あいつが、帰ってきたからな。敵に回したくない”」
主がそんな弱気な事を言うとは思えなかった。
思い出すのは黒髪のややのっぺりとした感じの――この世界の住民は彫が深い――顔をしていた雌――せめて女と言え――。
「”主の名を呼んでいたあいつですか?”」
名を呼べるのは、同格か高位の者。
同格? 高位?
あんなのが、主と同じか。上だと。
「”ああ。あいつは、あの地の魔王だしな”」
あんなのが………。
その時感じたのは怒り。
敬愛する方と同じものを認めたくない。許せない。
次に感じたのは、嫉妬。
大切な方に認められている。名を呼べる。
その立場に自分がなりたい。
そんな想いが生まれ。
ナラ、トッテシマエバイイ
胸の内から、こぼれる声。
テニスレバイイ
その声は、甘い甘い毒。
「”そうだ…”」
取ってしまえば、あの方が自分を見てくれる。
対等に、部下ではなく。
本人は、気付いてなかった。
自分のその考えは、その敬愛する主を裏切っている事を――。
それは、一つの欲。
魔王になる条件は、欲深い事。
その欲が強ければ強いほど、それに近くなる。
そして、それは、敬愛する魔王とのつながりを断ち切る物であった。
勇者のターン。




