捨てる者 拾う者
やっと触れれたシトラ達の行動
幕間 捨てる者 拾う者
昏い。
空には厚い雲が覆っていて、腕の中に天狼が居る温もりだけが自分をも持ってくれているのを感じる。
厚い雲はたくさんの人を映し出す。
村の友達。
その親。
優しくしてくれた村の人。
村長さん。
そして、――両親。
『化け物になってしまった』
母親が嘆く。
『魔物に取り付かれたんだ!!』
お父さんが言い放つ。
『魔物に名を付けるなんて…』
『魔物を庇うなんて…』
恐ろしい子。化け物。
雲から落ちてくるのは雨と石。
痛くて痛くて身を守りたいけど、周りには何もない。
天狼が、ウィンだけがまるで慰めるように擦り寄ってくる。
ウィンを大事にしてはダメなのっ⁉
友達なのに!!
仲良くしちゃったら異端って……。
(お母さん……お父さん……)
私は…。
私はいらない子なの…?
――そんな事無い
声がする。
雲を切り裂いて、光が降りてくる。
光が当てられたと思ったら、光の中には雨も石も飛んでこない。静かな世界。
――君は居ていいんだよ
男の人の声。
――みんながいらないというなら私が必要だと言ってあげる
女の人の声。
いらないと言われたからこそ響く。甘美な毒。
お母さんは私をいらないと言った……。
――私は貴方が必要だよ
お父さんは私を悪魔だと言った。
――君は正しい事をしたんだ
否定され続けるのに疲れた。
肯定されると安心する。
――光は広がる。
もう雲は無い。
そして。
そして――。
「おはよう」
「疲れは取れたかしら」
虎の耳と尾を持つ青年。
ウサギの耳を持つ女性。
「お兄さん達。誰…?」
ウィンが顔を舐めてくる。
ウィンを化け物だと言わない。
私をいらないと言わない。
……不思議な不思議な人達。
この時は何とも思わなかった。
二人の姿が魔物――魔族の中で上位を示す魔人だと知らないので――もともと人の姿をしている魔物が居るなんて知らされてなかった――だから、二人の事は一風変わった人間だと思っていた。
「シトラ」
「シヅキ」
誇らしげに真名を名乗る人も知らない。真名は名乗ってはいけないモノ。だから、呼ぶときもあだ名で呼ぶ。常識。
この名前もあだ名…?
「――本名だよ」
「隠す意味がないから。シトラと呼んでくれるといいよ」
「私もシヅキと呼んでいいよ」
にこやかに笑ってくれる人。――名前は大事なモノなのに簡単に名乗っている不思議な人。
「呼ぶのに躊躇うなら好きに呼んでいいよ。俺らも君を好きに呼ぶから」
ぽんっ
撫でられる。触れられる。
石と農工具と暴言。冷たくて、悲しい物しか触れなかったのに…ウィンの温もりだけが温かかったのに、触れてもらえる。
呼んでも許される。
「お父さん…」
シトラに抱き付く。
「お母さん」
同じ様にシヅキにも。
「スピカ。だよ」
本名。真名。
「スピカって、呼んで。お父さん。お母さん」
だから、いらないって言わないで、大好きだって言ってよ。
「――大好きだよ」
「ありがとう。スピカ」
抱きしめてくれる温もり。それを感じて、少女――スピカは実の親を捨てた。
「……」
シトラはそれを複雑に感じている。
親を簡単に捨てれない。そこまで追い詰められてしまったスピカの心を憐れみ。逃げ道として軽く自分達を信用できるように洗脳したのだ。
「ごめんね……」
心を歪めた罪悪感はある。だから、最後まで責任を取って守るから。
「本当の親の分まで愛するから」
呟きはスピカには聞こえないが、共犯者のシヅキには聞こえている。
こくん
スピカには見えない角度でシヅキも同意するように頷いた。
洗脳したけど緩めなのは司祭との差をつける為です




