やり直しのお別れ
このタイトルは使いたかった。
第205話 やり直しのお別れ
ようやく解放されて――囚われなんてお姫様ポジ。絶対無理だわ――見慣れた面々に囲まれたんだけど。
えっと……。
どういう事?
リムクラインが、空間と空間を繋げる能力を開花させたとか。
何故か、勇者の剣が変貌していて、属性――所属?――が変わっているとか。
クラゲ姿のクーがふわふわ髪の毛の声楽隊に所属してそうな美少年になっているとか。
女騎士の冥王の力が加わっているとか。
「………」
誰か説明をプリーズ。
「あはっ。目を白黒させてる」
『ほほっ。そうじゃな』
冥王と精霊王が面白がっている。
何でお前達居るの?
「すっ、すみません!! まさか獣の王だなんて知らずに……」
びくびく
おどおど
慌てふためいて頭を下げてくる末っ子を見て、
「……急に大きくなったな。彼女によく似てる」
母親に似たんだな。恋に情熱的なところとその手段は父親にだけど。
「あの…魔王…」
かつて生贄だった王女は真実を知って、怯えたように精霊王の背中に隠れている。
精霊王その様を可愛いと思って鼻を伸ばしてるな。
「新庄さん……」
勇者がこちらを見てくる。
……怒るだろうな。真実を隠して傍にいて。
殺されても仕方ないか――。
目を閉じて、斬り付けられるのを覚悟して待つ。
だが、
「ごめん!!」
からんころん
何の音かと目を開けると勇者の剣が床に落ちていた。
ひいいいぃぃぃぃ
女性陣が恐慌状態に陥っているぞ。聖なる武器になんて事してるんだ!!
斬られる立場なのにその勇者の行動に焦ってしまうが勇者は動じない。
「ごめん。……新庄さん。――魔王ラーセルシェード」
名を呼ばれて、ああ、勇者と魔王は同格だからな名の束縛も名を呼んで起こる悲劇もないのに安堵する。
「ごめん。君を、貴方を殺してしまって……」
殺してごめんなさいか。不思議なものだな。
「……騙していたのはこちらだ」
「言えなくしたの俺だから!!」
謝る筋は無いと首を振ると勇者が反論する。
………勇者に何があったんだろうという変貌ぶりだな。
「ごめん。怖かったよね。今まで――あちらの世界でも」
かつて自分を殺した存在に付き纏われる。記憶が無くても根本的な恐怖は残っている。
「本当にごめん!!」
そう言われてももう終わった事だし。
「――勇者と魔王はそういう対だったからそういうのはいいよ」
決められた運命だった。だから、
「怖かったし、辛かったけど。今は気にしてないんだ」
単純なのか脳筋だからか。
それにショックを勇者が受けている。何でだろう?
許したのに?
「……責められた方が楽な事もあるんだよ」
『ホンに自分の行いが相手にとって些細な事になるというのは切ないのぅ~』
冥王と精霊王。昔なじみに肩を叩かれて――冥王は身長が足りなかったので腰だったが――呆れたように溜め息を吐かれる。
意味が分からない。
許してもらった方がいいんじゃないのか。
『……ラーシェル』
「それが男心と言うもんだよ」
……………意味分からないな。魔王時代男だったのに。
「リム。分かる?」
「そうですね。…自分のした事が自分にとって大きな事なのに相手は気にしてないと悲しいものですよ」
………アイドルのコンサートに行って感激したファンとアイドルからしたらただの仕事で記憶から薄れていく物だったという感じかな。
経験ないけど。
「リムもあるの?」
何となく気になった。
「少し違いますが、我が君に助けられた事は自分にとって大きな事なので、真緒様には忘れてもらいたくないですね」
お城の牢獄。
「――忘れないよ」
魔王であった記憶と女子高生の記憶が混ざって混乱していた頃。勇者に怯えつつ、魔王としての責任感と情報を欲しての行動。
「忘れられないから」
そう告げるとリムが嬉しそうに笑う。
「――王様」
話は区切りがついたと判断したのか声が挟まれる。
白銀の魔人。
かつての自分の姿。
「もう、いい?」
人間達が忘れていった結界の維持の方法。
「――ああ」
……それをしないといけない。
「――勇者」
呼び掛ける。覚悟を持って――。
「かつての魔王。その躯を用いて結界を維持する。それの為に」
一度言葉を切る。
「この身体を解体してくれないか?」
とかつての身体を指さした。
もっと勇者と揉めたかったけど、真緒様はすでに気にしていない件




