欲望と想い
別にどこぞの団体を馬鹿にしているわけではありません
第200話 欲望と想い
助け出すチャンスだとは言うけど。
「……どうやって行くの?」
ここは魔王城。
捕らわれているのはたぶん神殿。
……………………距離があり過ぎる。
「水琴……」
「ごめんなさい。僕は飛行能力は弱いので、全員は……」
魔法少女が空を飛んでと言おうとしたらそんな申し訳なさそうに頭を下げてできないと告げる竜。それを見て、そういえばこいつ他の兄姉より劣っていると言っていたな。
と、言うのを思い出す。
「救い出せるのに」
移動手段がないと嘆いていると鼻で笑う気配。
魔族三人の代表格山羊の魔人――リムクラインだ。
こいつの態度は一々不快なんだよね。
新庄の友人を思い出して。
「”クー。繋いであるか”」
旧文明の言語。以前は分からなかったけど、今はしっかり分かる。
「……」
頷くクー。
「”なら、出来るな”」
クーのクラゲ状態の足を掴み、そこに魔力を注ぐ。
「ふうん」
『ほお』
魔王二人が面白いモノを見たと感心しているがこちらにはちんぷんかんぷんだ。
「水琴?」
魔法少女の問い掛けに、
「……あの魔人の足の先が化の人の手首に絡み付いているです。それを伝って無理やり空間を繋げるつもりです」
何それ?
「そんなん出来るの?」
聞いている分は簡単そうだけど、やるとしたら難しいだろう。
「――出来ますよ」
どこか誇らしげな声。
「魔族は欲望で強くなった種族です。彼は今自分の主君を助け出したいという想いが力を強めてますから」
想いと言えば綺麗だけど、欲と言うと悪い印象を抱いてしまうのはなんでだろう。
「その欲が周りをどう巻き込むか…それが悪い印象になるんじゃないでしょうか」
疑問をすぐに答えてくれる。
「どんな綺麗事を言っても欲望は自分が良くなるために他者を傷付けるものですし」
「ああ…。確かに」
――三大欲求に食欲がある。
命を奪うな。よくある言葉だけど。生きていく上で、食べないといけない。それは命を奪っていく事他ならない。
動物愛護団体に対しての偏見もあるけど、命を奪うなと言っている者達は肉や魚を食べないのだろうか。ベジタリアンは命を奪わないと言っている者もいるが、植物も生きているから奪っている事には変わりがない。
無駄に殺す事は進めてはいないが、殺さないといけない場合もあるのも確かだ。
………………要は、その奪った命をどう受け止めるかという事かもしれない。
仏教の教えが生活に息づいているから『いただきます』『ご馳走様』が生きるために奪った命に感謝して、命を無駄にしない誓い。祈りだという考えがあるから。
分かりやすかった。
「あの魔人が主君を助けたいと思うのは、攫った側からすれば怒りの対象ですし」
手に入れたのも欲。
助けたいのも欲。
彼女はかつての魔王で、攫ったのは人間の世界で権力を持っている司祭。
客観的な意見だと勇者は司祭の味方をするべきだろう。
逆にその根源の理由が、どちらも同じ欲であると感じるのなら。正義と言う存在である勇者は本来どちらにも肩入れはしない方がいいだろうけど。
「真理だな……」
そう考えると人間と大差ない気がしてくる。
「――繋がりましたよ」
リムクラインが声を掛ける。
魔王城の一部が別空間に繋がっているのが見える。
「ここからは……」
貴方方にお願いします。
懇願する声。
「――任せて」
本来はどちらにも偏ってはいけない立場で、人間の味方でいないといけない勇者。だけど、助けたいという想いに天秤が傾いてしまった。
まあ、それも今更か。
自嘲気味に嗤う。
傀儡になると自分で選択したから。今更だとすぐに考えを改めた。
真緒様を想うあまりどんどん強くなっているリムクライン




