それは見詰める故に嗤う
高位の者達久しぶり
第190話 それは見詰める。故に嗤う
くすくす
机に映る映像を楽しげに見る眼。眼。眼。
「一度甘い汁を知ってそれを当然と思ってしまうと楽な方に流れる物よ」
誰かが嗤う。
「それが自身の首を占めるとは気付かずにな」
別の者も謳う。
映像には新たな勇者を呼ぼうと言う意見で大きく揺れ動いている。
確かに勇者と言うのは役に立つだろう。ただし、一人目の勇者を呼んでそれが亡くなった(?)から二人目。
死んだから呼ばれたと言う事実が信仰に罅を入れるだろう。
勇者が死んだ事実を伏せる?
勇者の行動は宣伝に使えるから公表していたのだろう。その勇者が魔王城に入ったのは知られている。そこから出た形跡が無いのに街で勇者が出立する?
怪しまれるだろう。
街の人達は勇者を見ているからすぐに別人と気付くだろう。
「一神教の悲劇ね」
多神教なら別の神が勇者を召喚できるのに――まあ、勢力争いに変化が現れるが――多神教ではなく、一神教故それが出来ない。
表向きはユスティの身元で一枚岩だ。どんな形で召喚しても進行が弱まる。派閥があると知られたら今まで築いていた物が崩れるだろう。
まあ、あの子にはその方が都合がいいかもしれないが。
神を辞めたくて辞めたくて仕方ない存在は自分の信仰が失墜するのを望んでいる。
「それでも新たな勇者は歓迎できないだろうな」
自身の子飼い。それだけならいいが、勇者と言う存在に縛られるのもまた事実だ。
「人間達の奴隷になっている身分で言い出せないかもしれないけど、いくら勇者を召喚しても勇者の証の《勇者の剣》は無いまま。どんなに召喚されて正規の勇者だと言っても証が無いなら所詮偽者に過ぎないですよね」
しかも勇者は死んでない。生存が確認できなくなっただけだ。
「それを信者に伝えれば、勇者に加護を与えると言う厄介な面倒事を言われなくて済むんだけどね」
だけど、どうするだろうか。
面倒な加護を与えて信仰を弱めるか。
勇者召喚の危険性をはっきり伝えるか。
「……貴女ならどうしますか?」
この遊戯の監督を務めている女神に別の神が尋ねる。
「まあ、どちらでもいいけど」
面白くなりそうなら。
「まあ、新たな勇者を召喚して旧勇者と戦わせるのも一興だし。召喚せずに神殿の偉功を持って兵を動かしても面白い」
どう動いてもこの地は荒れる。
「慈悲深い獣の王の思惑は見事に崩れると言うわけだ」
かつて争いに疲れて逃れてきた民。その民を守っていた恩を仇で返される。
無知は罪。今その無知さ故苦しんでいる。
ああ、見ていて飽きない。
「さてと、この地はどうなるのかな」
そう賭けはこの地の終焉。
「ユスティはこの地が滅ぶのを期待していた」
「ラシェルはこの地が真実に気付いて持ち直すのを期待していた」
どちらに転んでも面白いが………。
「さてさて、どうなるか」
面白いのならそれでいい。
そのためなら好きにさせる。
高位の者達はあえて手を出さずただ嗤っていた。
こんなのばっかが神なのも可哀想だな。




