束縛されている女神
どう転んでも目標達成な女神
第189話 束縛されている女神
――ユスティ様
――ユスティ様!!
民が助けを、奇跡を。希望を求めて呼び続ける。
女神なら何とかしてくれる。女神なら救ってくれる。女神なら、女神なら!!
「ばっかみたい!!」
不快。
不愉快。
――ユスティ様
――ユスティ様!!
奇跡ばかり縋って何もしない輩。
小間使いの様に女神をあてにする輩。
もううんざりだ。
・・・・・
『ユスティ様』
強い言葉で呼ばれた。名の束縛。強制力のあるそれでは無視できない。
身体が勝手に動く。
どんなに嫌でも自分の意思ではどうにもならない。
神殿の一角。
多くの神殿関係者が集っている。
そこに女神ユスティが降臨する。
「おおっ!!」
「ユスティ様!!」
「女神様!!」
歓声を上がる神官達を見ていると虫唾が走る。
降臨と言うのは神の奇跡。偉業。
頻繁に行われる代物ではない。
それなのにユスティ教。それを拝めている者達にとってはそんな事実を知らない。
女神である事。
名を束縛されて、そう強要させられている身。
彼らは気安く女神を降臨させる。
些細な相談。
権力争いの勢力図を塗り替え。
客寄せ。
客寄せ。
客寄せ。
もううんざりだ。
そう内心で思っていてもそんな感情は表に出さない。
慈愛に満ちた笑みを浮かべ。
涼やかな声で。
――わたくしの助けを求めているようですね
と、神官達に話し掛ける。
「おおっ!!」
「ユスティ様だ」
「ユスティ様!!」
「ユスティ様!!」
早く要件を言え。さっさと去りたい。
「ユスティ様。勇者が…」
神官の一人が声を掛けてくる。
…………珍しい。名の強制力があったのに司祭ではなかったのか。
――勇者がどうしましたか?
ああ、自分の支配下に居た勇者の気配が消えた。
人形のような微笑みを浮かべつつ、ようやく魔王になったのかと内心高笑いを浮かべる。
これでいい。
「勇者の気配が突如消え去り。これは、勇者が……」
――………わたくしも勇者が把握できません
広がる動揺。
「そんな!! 勇者が居なくては○○国の戦いが」
「××国に恩を売れない!?」
「どうするんだ!? △△海域の幽霊船は片付いてないんだぞ!!」
「◇◇の件もあるのに…!!」
「はぁ!? ◇◇の件は片付いただろう。あの巨大な力で消し去って…」
「だからだよっ!! 魔王が復活して魔王に助けてもらったなんて外聞が悪い」
それぞれの懇意のとこから勇者を貸し出せと話が来ているのだろう――裏でどれくらいのモノが動いたのか。金か土地か。権力化。娯楽化。ああ、女と言うのもある。どちらにしても清廉潔白を民に謳っているとは思えない欲の権化達がそこに居る。
勇者と言う存在。
勇者と言う兵器。
それをあてにしていたから突然の消失で焦っている。
いい気味だ。
「勇者が消えるなど……」
「人類の希望が」
嘆く声。喚く姿。
ああ、この姿を民に見せれば心が離れていくかもしれないな。
信仰と言う鎖が弱まれば自由になれる。
女神だと言う何でも屋を辞められる。
高位の者達同士で行っている賭けにも勝てる。
後は――。
笑いを抑えるのが大変だ。
旨く行く。全てが上手くいっている。
だから―――。
「新たな勇者を召喚すればいい!!」
そんなバカげた言葉に耳を疑った。
ユスティの加護から外れたから把握できなくなっただけで魔王化ではない




