玩具の世界
早く助けに来ないかな……
第178話 玩具の世界
「……」
食事が終わってもその腕は緩まない。
「私はどちらでお呼びすればいいんでしょうかね?」
貴方の御名を――。
腰に手を回して、顔の輪郭一つ一つ確かめる様に動かしていく。
その動きが虫が這いずり回っているようで――もふもふは好きで、爬虫類は抵抗が無いが、虫は蝶とかトンボ以外は好きになれない。ましてやこの動き蜘蛛とかムカデみたいに思えて――気味が悪い。
「ラーセルシェード様? 新庄真緒様? どちらの御名でも至高の方の名。天上の音楽すら掻き消してしまいますけど」
「……」
答える気はない。怖くて口を開きたくないのもあるし、何か一言でも言ったら危険な気がするのだ。
「ローゼル」
「ひいいいいいぃ!!」
女騎士の悲鳴が響く。
「リジー」
「嫌あああああああぁ!!」
巫女の悲鳴も、
「っ!?」
とっさにそちらを見ると、女騎士は、自分の剣を取り出して、足を貫こうとしていて、巫女は片付けている最中の食器の中からフォークを取り出してそれで自分の目を貫こうとしている。
「――駄目ですよ」
私以外を見ては。
顎に触れられて、無理やり振り向かされる。
「どちらの呼び方がいいですか?」
「…………そんなの、好きにすればいいでしょう!! さっさと辞めさせなさい!!」
命じるように叫ぶと、
「――ええ。そうします。真緒さん」
その声に合わせるように、二人が糸が切れたように動かなくなる。
「っ!?」
「大丈夫ですよ。ただ、私の命令を逆らおうとしていたので、力尽きたんです」
愚かですよね。
虫けらを見るような冷たい眼差し、
「――神殿と言うのはいい隠れ蓑でね」
頬を撫でる。
「名の支配を恐れて、名を明かさないのに神殿関係には、この地に居る全ての者の名が神に奉げられると言う名目で集まるんですよ。特に勇者一行の名はいつでも使えるように確認しました」
魔法少女が支配できなかったのは誤算ですが。
「――先に私が名の支配をしたからでしょう」
そして、今は龍の加護がある。他者に手が出せない。
「ああ。それででしたか。――王女に関しては精霊王と言う他の地域で崇められている存在の影響下で不可能だと判断しましたが」
「側近に命じて、異郷の神を信じているから魔女として片付けるつもりだったんですけど。先手必勝として、尋問中に冥王と龍帝が現れましてね」
神殿のシンボルを足蹴にして壊される。
「あの魔王達の連携は何でしょうか。異郷の魔王に手出し出来なかったのに王女が立ち向かおうとした言う事であの辺りでは神よりも王女を崇める流れになっているんですよね」
…………その話。クーから報告があったな。
「まあ、もうユスティ様も用済みだから信仰が消えてもいいのですけどね」
「……ユスティをどうするつもり?」
神と言う存在に縛り付けて、
「――どうもしません」
笑う声。
「あの娘は都合が良かったんですよ。程良く憎しみを宿して――魔王が空位なら魔王候補になれたかもしれない気性。貴方の呪い。神の作り方を実践できてよかったですよ」
神の作り方?
「神は…高位の者を作るって」
「高位の方は退屈してるんですよ。変化のない世界。平坦な日々。せめて、魔王と勇者の対決と言うお芝居があればいいのに今のところ魔王を討伐する程の危機もない。ならば退屈しのぎに玩具になりそうな存在を探してみよう。――その玩具に選ばれたのは私とユスティなんですよ」
玩具と言う割に面白がる声。
「貴方もご存じでしょう。魔王として勇者に倒される時期が早すぎると。――退屈しのぎに高位の者が周期を早めたんですよ。二つの玩具を使って」
そいつの身体が変貌する。
人間の形をしていたのに急にドロドロに溶け出して。自分以外を触れさせないとばかりにこちらの全身を包み込んできて、呼吸さえさせないとばかりに密着してきて、息が出来なくなる。
「貴方を欲する私とあなたを激しく憎んでいる小娘。いい退屈しのぎですからね」
声は聞こえるが、呼吸できない状態では考える力を奪われる。
「――お休みなさい。貴方を歪めるのは好みではないですが、次に起きた時は私しかいない世界を見せてあげますよ」
不気味な予言。
・・
その予言を耳にしながら、僅かに出来る抵抗として、それに命令を下した。
気を失って真緒様退散




