盲信的な愛の形
真緒様の受難
第177話 盲信的な愛の形
ああ。手に入った。
男は笑う。
ずっと、欲しかった。
大勢の者が群がっている至高の方。
独り占めしたくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて、したくて。
ああ。ようやく自分の手の中に落ちてくれた。
魂を今の器から引き離そうと思っていたけど、止めた。
この器もこのお方に似合っている。
髪に触れる。
その触り心地を楽しむ。
口付ける。
その芳醇な香りを楽しむ。
一瞬だけ、昔の事を口にされて乱暴な事をしてしまった。でも、自分が傷付けたなら又それも一興。
他者が付けた傷なら付けたモノを骨も残さず消し去ってしまうが、自分ならいい。
髪が数本抜けたので、味覚で味わってみる幸福を感じ取れて、万々歳だ。
「――ああ。貴方の味はこんなものなのですね」
もっと、味わいたい。
その心のままゆっくりとこのお方の後ろに回り、抱き寄せる。
椅子に座ってもらっていたが、自分がこの方の椅子になればいいのだと判断して、乗せた。
柔らかい。
甘い香り。
その温もり。
ああ、なんて至福なひと時。
魂が飛んでいきそうな幸福と言うのはまさにこれの事だろう。
「――愛してます」
耳元に囁き、耳を甘噛みする。
びくっ
その声の反応する仕草。
ああ、このまま椅子になる幸福もいいがそれではこの方のご尊顔が見れれない。
自分が二人居ればいいが、二人になったら二人でこの方を分け合う地獄があるのを感じる未来が予想できるので、それは有効ではないだろう。
耳を舐め、吸い付く肌を感じて、その様子を眺めたい――。
そんな祈りは魔力に変換して、顔を見れないはずの姿勢だったのに正面の姿が見えるようになる。
同時に今まで見えていた姿も見えるので視界が広がったのか目が増えたのか――。
「どういう仕組みでしょうね……」
独り言。
青ざめている方の姿を――どうして怯えるのか分からない――しっかり堪能すると、
「――分かりますか? 至高の方?」
ああ。声を聞きたい。疑問があるのならこの方に聞けばいい。話のきっかけになるであろうし、自分に向けてその声を降らせてくれる。
「………………目が」
目?
「目が複数浮いてる……………」
天上の楽器すらくすんで聞こえる。そんな澄んだ音色。その魅惑な声を聞かされたら魂を奪われてしまいそうになる。
「そうですか……。目ですか……」
浮いているのであれば――。
ふと思い立ってあらゆる角度から見つめる。
上――口付けしたくなる旋毛。
少し下に下がって――その真っ直ぐな首筋。
腕の付け根――ああ、左と右。両方見つめたい。
産毛すら見える腕。
触り心地よさそうだが聖域であるので触れない二つの果実。
くびれ。
カモシカの様な――綺麗な足をどうしてそのような生き物で表現するのであろうか――足。
一つ、一つ。神に愛された芸術作品の様だ。
神は信仰してない――存在しているのは知っているが――それでもこの素晴らしい宝玉を生み出した偉業を褒め称えたい。
ああ。なんて――。
「ようやく、私の元に堕ちてくれた」
大事にする。
大切に大切にしよう。
「貴方の目に映るのは私だけでいい」
世界を光の無い世界にしよう。光は自分とこの方しか照らさない。
「貴方が声を掛けるのは私だけでいい」
世界中の者の耳を潰してあげよう。
「触れるのは私を通してから」
常に抱いて、床に足を下ろすのも出来ない様にしてあげる。
「憎しみでも怒りでも悲しみでもすべての感情を私に向けて下さい。ああ。その後私しかいない世界を受け入れて、すべて私に任せて下さい」
自分の全てはこの方のモノ。ならばこの方の全ても私のモノ。
「愛してます――ラーセルシェード様。新庄真緒様」
耳元でささやくと、怯えたように――ああ、名の束縛を恐れているのだろう――震えていた。
早く助けが来るといいね




