狂信者
真緒様お帰り。でもあんまり嬉しくないかも
第176話 狂信者
目が覚めると薄暗いまるで鍾乳洞のような空間を加工した世界が広がっていた。
「――目覚めましたか?」
声がしてそちらを見る。
警戒はしている。だけど、抵抗する手段を思い浮かべられず、不安と焦りを表に出さない様にするのが一杯一杯だった。
声の主が近付いてくる。その後ろには女騎士と巫女が人形の様に付いてくる。
「……」
「良かった。このまま目が覚めないかと思いましたよ」
にこやかに――そのにこやかさが不気味に思える――告げる声の主の手にはお盆。その上には彩り豊かな食事の数々――。
「お腹空いている筈です。お食事をどうぞ」
渡されるが手を伸ばさない。――気を失っている間に殺されなかったから可能性は低いが、毒が盛られているのを考慮したのだ。
「……」
警戒して、ずっとそいつを見ていると、そいつは困ったように、
「――リジー」
巫女の名を呼ぶ。
「ひいいいいぃ!!」
人形の様に感情が消えていた姿から恐怖で票序を歪める巫女の姿。――その巫女の手には刃物が握られていて、彼女の意思にさからって刃物は彼女の喉に突き立てるように近付いてくる。
小刻みに震える手。
涙を流している瞳。
でも、手は止まらない。
「――そこまで」
刃先が触れる直前に止める声。
声の主は楽しげに、
「どうぞ。お食べ下さい」
「………」
受け取る。
関係ないと突っぱねる事は出来たかもしれない。だけど、こいつは脅し絵は無く本当に殺すだろう。役に立たないと判断したのなら――。
流石に自分の身可愛さでしたくないと抵抗して人が死ぬのは見たくない。
甘いと言われるが、単に臆病なだけだ。
「――美味しいですか?」
尋ねられても、こういう時って料理に味は感じなくなるものなのだと――まったく分からないのだ。
「………」
答えない。ただ、食べるだけ、
「――美味しくないのですか? 作った料理人を」
「こういう時に味わって食べれるほど私は強くないので」
料理人は悪くない。それなのに殺されては堪ったものじゃないので正直に告げる。
………嘘でも美味しいと言った方がいいかもしれないと一瞬思ったが、嘘を見抜きそうだし、嘘を言わせたという事で料理人を処分しそうだ。
そんな危うさを感じる。
男は食べている間。不躾に人の髪に触れる。
最初は触れるだけ。
次にくるくる指に巻き付ける。
しまいには、神に口付けて、その髪を舐める。
………………おいっ!!
「月のような白銀の髪も貴方の凛々しさを表してましたが、闇を集めて縫い上げた黒髪も素晴らしい」
……鳥肌が立つ。
「正直。元の器に戻るために今の器を壊そうと思いましたけど…」
器って、やな予感がするんだけど………。
「この器を壊すのも偲びありません」
うん。分かりたくないけど、死亡フラグは回避したんだね。
「日替わりで器を交換して楽しませてもらいましょう。そうすれば解決ですね」
にこにこ
「――愛してあげますよ」
そう告げてくるそいつに鳥肌を立てながら……。
「――会った事あったな」
前世の記憶に引っ掛かる。
「――忘れて下さい。貴方の御傍に居られなかった頃の私を」
ぐいっ
強く髪を引っ張られる。
引き千切られるかと言う恐怖を覚える。
「ああ。すみません」
男の指に抜けた髪が絡まる。
「――怖がれせてしまいましたね」
慰めるような口調で、男は抜けた髪を口に入れる。
「――ああ。貴方を口に出来るなんて何という至福」
私にとって地獄だよ。
そう言いたかったけど、怖くて口が開かなかった。
病んでるよね? これ充分病んでるキャラになってるよね




