傀儡の勇者 その4
あ~あ。バラしちゃった
第175話 傀儡の勇者 その4
…………言われて見れば確かにそれらしい素振りがあった。
魔族が襲ってこないとか。
魔族と話をしているとか。
俺がしゃべれなかった言語を話せたとか。
「魔物の勇者とかは……」
――ああ。それは、魔王と勇者は同格だからな。人で言う希望の光が勇者なら。魔族にとっての希望は魔王と言う存在だ
そういう意味では魔族の勇者と言う言葉はあっているかもな。
生贄の勇者が説明する。
「そうなんだ……」
色々想う事がある。
――どうした?
「俺は……”新庄さん”を殺したんだよね」
―ー…………
流れる沈黙。
「俺は……」
「――魔族はお前を恨んでいる」
さっきまで争っていたのに、山羊の魔人がこちらを見て告げる。恨んでいるという割に穏やかな口調なのは気のせいだろうか。
「殺したいほど憎んでいて、それでも殺さなかった」
「それは、自分達が死にたくなかったから…?」
「――違う」
即答。
「お前の召喚のついでに我が君が――真緒様が現れたからだ」
はっきりと告げてくる迷いのない声。
「それで帳消しにした。――我が君は帰ってきてくれた。魔族達は荒れているのも我が君が来られた事で平穏になった」
そこまで告げると、眼差しが鋭くなる。――宿っているのは憎悪。
「だが、私とアカネはお前を憎む」
アカネ?
キツネの魔人を知らず知らず目にやる。
その名前は、新庄がキツネの魔獣に付けた名前。
「お前が真緒様を殺し掛けたからな」
断罪する声。
「それは……」
「貴方方が何を企んでいるか知りませんが、真緒様は私達が助けます!!」
扉に絡みつく荊を不快気に見て壊そうとする。
『冥王』
「――気が短いね」
単刀直入に言うよ。
「君を勇者として、神の加護こそ弱いけど僕たちが君に力を貸してあげる」
だから、
「さっさとあの候補者倒して、この地を安定させてくれない?」
尋ねる言葉の意味を今一つ図りかねない。
「えっと…」
「――親爺殿もこの地を安定させてくれと……母の故郷なので」
龍の息子も告げる。
「これは取引だよ。魔王と勇者は同格。君はボク達三人の魔王の援助で本当の勇者になってもらう」
『――別に深い意図は無い。わらわ達は今回の件で高位の者に腹を立てているのじゃ』
その言葉に、生贄の勇者も迷いつつ、
――ユスティ。あの女神を救ってくれないか?
とまで言い出してくる。
「――いや、なら別にいいよ。たぶん。僕らの取引に応じたら君の名は後世にこう残されるからね。魔王に誑かされた『傀儡の勇者』と――」
傀儡か。
「……それは、今とどう違う?」
尋ねると魔王達――代理も含め――が面白そうに笑う。
それはさながら共犯者を引き入れた悪人の顔だった。
次は真緒様。次は真緒様。次は真緒様……。




