傀儡の勇者 その2
冥王さんは動かしやすい
第173話 傀儡の勇者 その2
冥府の番人――冥王はにこにこと邪気の無い――外見が腐乱死体じゃなければ―ー笑みで床に着地する。
「こんにちは。傀儡の勇者」
かいらい?
「――傀儡。操り人形と言う意味ですよ」
『馬鹿にされておるのじゃ』
龍帝の末っ子と精霊王が説明してくれるが、
「傀儡……そうだよね。俺操られていたんだし」
分かっていたけど、地味に痛い。
「馬鹿にしてないけど?」
『そなたの物言いはそうとしか思えぬ』
「知恵者の冥王の言い方は疑って掛かれと親爺殿からの伝言ですので」
冥王の返しに、精霊王と龍帝の代理が答える。
「まあ、そうだけどね」
にっこり
あっさり肯定して、
「仕方ないだろう。僕は獣の王を気に入っていたし」
ぎくっ
「まあ、それでも油断して倒されたから。――敵討ちとか考えてないよ。上下関係ないし、それも自然の摂理だし」
くすりっ
「――死んでしまえばみんな僕の支配下だし」
ぞくっ
なんか怖い発言を聞いたけど。
殺した後ろめたさが一瞬で消えた。
転生してるっていうからそのまま逃げて超にげてと応援したくなったのは、魔王と勇者としてはおかしいかもしれないけど。
『まだ、やっておったのか魔王の魂を高位の者から掠め取る遊戯を』
「だって、みぃんな。僕が気に入っていたんだよ。居なくなるの寂しいじゃない。――僕の支配下にすれば戦力も拡大するし」
精霊王も龍帝もそうしてあげるね。
にこりと告げる支配下宣言。
「……」
うん。聞かなかった事にしよう。
「――まあ、それはともかく」
空気が変化した。それに合わせて精霊王も龍帝の息子の雰囲気も変わり、
(殺伐としてるような……)
「勇者に尋ねるけど。君はあの魔王候補をどうしたい?」
魔王候補?
――どういう意味だ。ハゼット=ギア?
生贄の勇者が冥王の名らしきものを告げる。
「うん。僕の名前を呼べる。流石高位の者」
ぱちぱちぱち
拍手をして、
「そのまんま。――僕は正直あの魔王候補は嫌い――同族嫌悪と言われそうだから先に言っておくけど。あいつがこの地の魔王になったら争いは深まるよ。何といってもあいつは上に立つ者の責務を果たす気ないんだし」
一区切り。
「上に立つ者は下に居る者を抑える役目がある。僕は恐怖で支配した。龍帝は畏怖で、精霊王は崇拝で、獣の王は、親しみやすさで」
それぞれの王がそれぞれの方法で支配した。――統制を取るために。
「だけど、あの魔王候補の欲望は魔王になるだけの資質があるけど、僕からすれば不快の一言だ」
『――ほう。そういうのなら知っておるのだろう。彼の者の欲を』
精霊王が尋ねる。
「――たった一人を独占したい。自分のモノにしたい。そのためなら孤立させる。そのためには滅ぼしていく、その魂を自分しかいない所に閉じ込め、愛でる。そして、二人だけでいる。――そんな王は認めない」
びくううぅぅぅぅっ
背筋が凍るかと思った。
「だけど、所詮僕は外の地域の王。中まで手が出せない」
『よく言う。腹黒が』
精霊王が突っ込む。
「だからの取引だ。――勇者として魔王候補を倒して、もう一人の魔王候補を支援しない?」
そうすれば、魔王化も止まるし。
「……って、魔王化も止まりそうだけどね。そうだろ生贄の女神」
探る眼差し。
「君がここに現れた。すなわち、この勇者を君の勇者にする条件が整ったという事じゃない?」
にっこり
―ー………食えないですね
「腐ってるから美味しくないよ」
にこにこ
「勇者としてきちんと立てば僕と同格。これは同盟の申し入れだよ」
どうする。
冥王はあどけない笑みと裏腹な策略家の眼差しで尋ねた。
因みに他の者達は空気を読んで黙ってます




