誤算
ヤンデレみたいになってるなこれも
第163話 誤算
「おかしいわ…」
駒の操り手は呟く。
駒は知ったはずだ。
自分の知っていた事が虚構だと。
「おかしい…」
信じていた物が崩れる瞬間。
正義から悪へと変ずる時に絶望して、狂い、――魔に転じるはず。
そう、そのはずなのに――。
「どうして絶望しないの」
人は脆い。
信じていた物が崩れる時。
絶対の正義が偽りだと信じる時。
絶望して僅かな心の隙間から蒔いた種が発芽していくのに。
彼女は、魔王の出現方法を詳しく知らない。
魔王と言う存在の出現方法。
その一つが欲深い事。
欲を叶えようとすることで力を得て、強くなる。
どんな欲でもいい。
死にたくないと願うのも。
空をどこまでも飛びたいと願うのも。
家族を増やしたいと願うのも。
何かを理解して、心を交わしたいと願うのも――。
次の条件はその欲望――望みの為にどんな事でも諦めない事。
愚かだと罵られても傷付いても足掻き、高みを目指す――。
かの王は自分の望む事を理解してくれた存在を早く亡くした。
その悲しみはその理解者を喰らい、自らの一部にする事で共に進む誓いにしたが、それを見たモノらは次々に嘲笑した。
やはり、食べるのだと。
かの王は肉を喰らう獣だった。
肉を喰らう者等は、肉を食わないなどと愚かな行為だと笑い。
喰われる方はやはり我らを喰らうのだと恐れた。
そんな風に最大の理解者を失って、周りが去っていこうとしたが、彼の者は自分の欲を望みに手を伸ばし届くと信じた。そして、掴んだ。
彼女は勘違いしていた。
絶望から生まれるのが魔王ではなく。
逆境すら負けずに進んでいくのが魔王になる前提。
それ故、彼女のした事は逆効果だったのだ。
「まあ、いいわ」
まだ軌道修正できる。
「わたくしの望みはもうすぐ叶うもの」
酔うように告げる。
それは盲信に近い確信。
彼女のやり方は間違っているが、駒は相変わらず魔王になる道を進んでいる。
英雄願望と言う欲を持つその魂は、どのような形であれ、魔王の住む――いや、住んでた城に向かっている。
神と言われた自分の選んだ勇者が魔王に――世界の敵になる。
人々は絶望するだろう。
信じていた物が崩れて怯えるだろう。
「早く」
恋する乙女の様に恋い焦がれた。
「早く早く」
願う心はまさに欲。
その願いは世界を滅ぼす事。
予想ではもっと早かったのに。
あの魔王――獣の王の転生が邪魔したから魔王化が遅れている。
「でも――それも終わりよ」
玉座の傍には獣の王の転生――新庄真緒が居る。
「早く。惨い殺し方をしなさい。そして、さっさと魔王になりなさい」
そう駒に――勇者に命じるのだった。
方法は間違っているけど目的はある程度達成しているどこぞの神




