忠実なる部下から見る少女
馬鹿な…過労死するぞ
第162話 忠実なる部下から見る少女
がたっ
椅子から落ちる音。
「真緒様!!」
慌てて駆け寄ると、真緒が蒼白で脂汗を浮かべ、明らかに弱っているのが見て取れた。
「しっかりしてください!!」
抱き起こすと、真緒は弱々しく目を開け、
「大丈夫……」
と告げる。
「どこが大丈夫ですか!!」
怒りに任せて怒鳴ってしまう。
「どうして御身を大事になさらないのですかっ!!」
責められてその当の本人は不思議そうに首を傾げ、
「大事って…、大事にしてるよ」
死にたくないから頑張ってるんだし。
そう告げるその方に責めたくなる。
していない!!
この方は、自身がまだすべてを守る王――獣の王である自覚を持っていたが、それは、こちらから見ればもう必要のない自覚だった。
魔力の無い身体。非力な肉体。
それに何より、勇者にすでに倒されたという経歴。
もう、この方は魔王――我らの王としての役割が終わっているのに!!
そう、言いたかったが、その口は動かない。
(いや、愚かなのは我らだ……)
あの牢獄で、あの終わりをただ待つしかない世界で、新庄真緒を見付けてしまった――。
その時は魔王であった頃とは遜色もなかった。縋っていい相手だと、強い者であると錯覚していた。
『ひっく、ひ…』
橋から落とされて川の中に沈んでいく我が君を助け出した時。助けられた我が君が落ちた事、落とされた事で感じた死の恐怖で泣き出した時にようやくこの方が弱い者に変貌していた事実に気付いた。………気付かされた。
魔王と言う存在だったと言う色眼鏡を外して現れたのは、若い人間の少女。
身を守るすべもなく非力なだけの子供。
かつての魔王と異なる存在。
泣いているその身体はすっぽりと腕の中に納まった。
少し力を入れると壊してしまいそうなくらい柔らかかった。
それなのに、泣き止んだ彼の方の判断は……その魂の本質は変わらない。
『魔族も人も救う』
その救う人間の中には自身を倒した勇者も含まれているのに。
その救う存在の中に自分も含まれているかと思うと――。
ぎゅっ
「ちょっ!? リム!!」
苦しいのかお顔を赤らめている。
「すみません。力加減を間違えました」
弱い力で抱き寄せたつもりだったがついつい力が入っていたようだ。
抱き潰さないように気を付けないといけないのに。
「いや…力加減はいいんだけど……うん。自分好みの顔立ちにここまでされると……」
?
「何か?」
「うん。気にしないで、ただの自己嫌悪だから…」
魔王の影響力って、どこまでなのよ。
………我が君は、何をおっしゃっているのだろうか?
「我…真緒様?」
つい我が君と呼びそうになったのを慌てて治すと、
「……うん。声も反則だ。何で、好みの声色になってるんだろうね。魔王補正って怖い」
魔王って、まだ御身が魔王だと言っているのか。
魔王であったのは事実であってもこの方はすでに人間なのに。
……………そうやって、まだすべてを背負おうとなさるのか――。
「私にもっと頼ってください」
「リム…?」
「確かにかつて獣人であった魔人など貴方様の側近に比べると弱く頼りないかもしれませんが、私は貴方様のお役に立ちたい」
足手纏いにしかならないだろうけど。
「ご負担を軽くしたいのです!!」
叫ぶように告げると、
「……」
沈黙。
なんて、礼儀知らずな事を叫んでしまったのかと恥じると、
「えっと、うん。色々誤解しちゃうな…。うん…」
赤らめる顔。
「忠義心なんだけど、地味にダメージが……」
「どこか悪くされましたかっ!?」
もしかしたら打ちどころが…いや、魔王しか座れない玉座だかなり無理をされているのでは……。
表情こそ変化はないが内心かなり慌てていると。
「私の気持ちの問題だから。……ありがとうリム」
安心させるように笑い掛けるが作り笑いだ。
ずきんっ
私ではこの方を安心させられないのか。常に守られるばかりで何の役にも立てない。
ご負担を軽くしたいのに――。
「真緒様……」
だけど、それを伝える方法が分からない。
「……………私は」
貴方のご負担をどうすれば軽く出来るんでしょう。
そう言い掛けた口を閉じる。
その言葉こそが負担になってしまうからの自制。
だから――、
「愁いを帯びた顔も眼福なんだけど、私好みにやっぱり歪めたんだよね…」
と、その当の本人は悩みつつもリムクラインの動き一つ一つにいろんな意味で慰められていて、複雑な想いを抱いているのを幸か不幸か気付いてなかった―――。
リム「真緒様はいつも無理をする。どうにかしたいどうにか……」
アカネ「ウ●ンの力の方がいいかな? リポ●タンDの方がいい?」
リム「アロナ●ンでもいいかも」
真緒「甘いものがいいな」




