***の記憶
全て計算の内です
第159話 ***の記憶
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それは、正しい人として人々の前に現れた。
困る人を救う聖人。
神の御使い。
民の前に現れて、民と違う言語を話すその姿に、人々はその人物を理解しようとして必死に言葉を覚えた。
ユスティ教という神の力。
人々を救うという使命。
真の聖人。
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それは聖人として必ず現れた。
天候を先読みして川が荒れるのを確認して、未然に防げたのを伝えない。
被害が出た時になって姿を現して、川に落ちた人々を神の力――身に付いてきた魔力で救い出す。
そして、被害を先読みして、薬草を用意して無償で配る。
それもすべてユスティ―ーいもしない神の神託で言われた事だと告げて―――。
流行り病が起こった時は薬を持って。
飢饉が起きた時は食料を配給して。
人々は有り難がる。―-聖人を。――神を――。
それがすべて、聖人と呼ばれた存在の自作自演だと知らされずに――。
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そう、それが起こした。
病人を治す奇跡を起こしたいから毒を流した。
――毒を知っているなら薬草も用意できる。
食糧難を起こしたいなら連作障害、密植などなどをあえてさせて、イナゴなどの作物を荒らす虫をその地域にあえて行かせる様な流れを作るのは手間で時間が掛かったので、結果としては上々だった。
彼が動くたびに不幸が起き、彼が動くたびに救われる人間が増える。
そして、彼は人々に囁く、魔物の王が天災を起こしていると――。
それを何年、何十年。何百年と長い歳月を費やして、やがて、人々の歴史は塗り替えられる。
世界の神はユスティのみ。
慈悲深い獣の王は悪逆非道な魔王と呼ばれている。
魔族を魔物と呼び方を改めさせたのは、魔族と言う存在が知恵がある種族だと知ったら真実が明るみに出てしまう可能性を考慮したから。
言語もしかり。
そうやって少しづつ少しづつ獣の王を弱体化させた。
ユスティと言う小娘を神にしたのも些細な切っ掛けだ。
双子は不吉だととある妊婦に囁いて、一人を手放させて、その子を不幸にする。
最初の予定ではその捨てられた子を神にするつもりだったが、幸か不幸か捨てられた子は獣の王の手によって幸福を得て、その幸福に溺れる事は無かった。
なら、代わりにもう片方にする事にした。
まず父親に囁いた。
あの二人は似過ぎではないか。もしかしたら血が繋がっては…?
領主が調べたのは妻の不義ではなく、自分達の一族で子を手放さないといけない境遇の者が出たのではないかと――そして、火遊びで子を作って捨てたのではないかと言う調査だった。
別に子が大事だったわけではない。政敵に足元を巣食われないための予防に過ぎなかった。
だが、そこで知った事実。
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それは囁く。
子供が姉妹をいたぶって愉悦を得た事実。
同じ自分の娘なのに不幸にさせた事実。
そう領主が気が狂うほど延々と囁き続けたのだ。
それで領主が死んだのを今度は娘に囁く。
彼の者は双子だった。
双子は不吉の象徴。
貴方から父を奪い。そして、貴方を不幸にするために戻ってきた。
彼の者はかの王を誑かして贅沢三昧であると――。
少女の憎悪は一気に広がった。
面白いぐらいに。
領主達の生活が贅沢三昧だったのは本人達のした事で囁いてはいない。だからこそ領主達は憎まれている事に気付いてない。
そして、その贅沢のツケが回ってきたのに気付かず怒りの矛先を面白いぐらいに片割れに向けた。
この後はどうなるか分からないが面白いぐらいに踊るだろう。
そう思って起きた入れ替わり。
王の呪い。
なら、それも利用させてもらおう。
名を縛った。魂を抑え込んだ。
神に仕立て上げたのだ。
………………高位の者と言う存在に娯楽を与えたからかかの者らの声が届くようになったのはそれからだった。
神の条件が整ってないのに創れた神は高位の者にとって最大の娯楽になって、さっそくその出来た神の利用を開始した。
使い走りとして。
ユスティは憎む対象をかの王に向ける。
そう、それが狙い。
それの思い描いた。獣の王を手に入れる計画は上手くいっていた。
たった一つの誤算によって崩壊するまで――。
おのれ、公明の罠か




