勇者の元の世界
召喚前
幕間 勇者の元の世界
本来の世界は、退屈だった。
召喚されている時は帰りたくて、早く魔王を倒したかった。
「生贄にされた王女を助けてくれ」
そう告げられて、戦って戦って、助け出した時は、ようやく帰れると思ったものだ。
でも、
「湯島君。あの、わたし…」
いろんな子が声を掛けてくる。あちらの世界でも勇者だともてはやされ、こちらに戻ってくると急にもてだした。
気が付くと。常に女の子に囲まれていた。
「………退屈」
あちらの世界に行く前の自分が思い出せない。こんなに人生勝ち組だっただろうか。
こちらに戻ってきたのはたった一週間。しかも親戚の家に行っていたと記憶補正されて、アフターフォローもばっちり。
それがますます自分と世界にずれを与えていた。
それが、ずっと続くと思っていた。
「………!!」
自分を見ると、怯えて、脱兎のごとく逃げ出す女子生徒。本人はさりげなくを装っているけど、勇者として戦っている内に一瞬の反応も見逃さなくなっていた。
「彼女は、確か…」
同じクラスの。
それからというもの常に彼女を観察していた。
動物好き。
女子から浮いてる。
そして、常に俺から逃げるのに気が付くと俺を見ている――。
「……」
それに気付くと後は簡単だ。彼女は、俺に好意を持っていて、話し掛けたいけど、恥ずかしくて声を掛けられない。
怯えているのも俺に嫌われると思っているからだ。
それなら話は簡単だ。話し掛けるのが恥ずかしいなら、こちらから掛けてみよう。
「新庄さん」
「新庄さん!」
何かあるとすぐに声を掛ける。親しくなるきっかけはこちらで十分用意した。後は、新庄さんが動くだけだ。
「新庄さん」
二人きりの廊下。飼育係の仕事を終えた新庄さんと知り合いの部活を覗いて遊んでいた俺。
話をするのに最高のロケーション。
「湯島君」
苦虫を食い潰したような顔。照れ隠しだと分かっているのに傷付くな。
「……湯島君。あの…」
迷うような素振りで、口を開く。遠慮しなくてもいいのに。君の言葉なら喜んでと伝えるのに。
新庄さんの口が動いて、音になる前に、
「勇者様の召喚が成功したぞ」
俺は、かつて呼ばれて世界に再び戻ってきた。
新庄さんの告白は聞けなかったけど、彼女が頼れるのは俺だけだ。
(ますます好きになってもらおう)
そう、決意して、二度目の世界を救う目標を立てる。
話を聞いてると前回倒してない魔物もたくさん出ているし。前回よりも難しくないといいところ見せれないし。
そんな勇者の決意を。
*
「人間の勇者は本当に都合よく動きそうだ」
「それでも都合よく動きすぎても困るがな」
「違いない」
「楽しく踊ってくれるのが見ものだ」
と見ている者にそのころ誰も気付いてなかった。
勇者の勘違い。真緒様の勘違いさせる要因あり




