ぬいぐるみと少年
彼の魔王空間を当初は劇場にしようかと思いましたがこれで行きます
幕間 ぬいぐるみと少年
(あれっ!?)
子供部屋。
たくさんのぬいぐるみが並べてあるその部屋に、虎とウサギのぬいぐるみを抱いた少年が居た。
「いつの間に……」
いや、そもそもここはどこだろう。
「やあ!! ボクはトラッタ!! 君は誰ダイ?」
虎のぬいぐるみがしゃべりだす。……どうやら腹話術の様だ。
ぬいぐるみを動かしている少年は無表情でじっとこちらを見ている。
(どこかで見た事あるような………)
どこだったか思い出せないが、聞かれたのなら答えようと近付こうとする。
びくっ
怯えるように後ずさる。
「………」
どうやら怖がらせてしまったみたいだ。
どうしようかと迷って、しゃがむ。
「こんにちは。トラッタ。俺は、シトラ」
自己紹介をする。名は神聖な物であまり名乗ってはいけないと言うけど、そういう慣習ってあんまり守ってないなとつい苦笑する。
「そうか。シトラか。僕はトラッタだ。おチビの保護者なんだぞ」
えっへん<(`^´)>と、胸を張るトラッタに、
「おチビって誰?」
と、にこにこと警戒させないように尋ねる。
「おチビはおチビだ。なっ!!」
トラッタが後ろの少年に振り返って告げる。どうやら、この少年がおチビらしい。
それにしても……。
誰かに似ているなと思ってたけど、それは幼い頃の自分だと思い出す。
それに引きずられるように、この部屋の正体にも気付きだす。
「ここは夢…?」
幼い頃。一人部屋が欲しくて想像していた。その子供部屋そっくりなのだ。
「………」
少年は答えない不安げにぬいぐるみを抱くだけ。
「シトラは何しにココに来たんだ?」
ここはおチビの遊び場だぞ。
問い詰めるが、責める声では無い。
「それが、分からなくて……」
夢から覚めればいいんだろうけど。どうやって覚めればいいのか。
「……」
少年はじっとこちらを見て、やがて、思いついたように真っ白い狼のぬいぐるみを差し出す。
「やあやあ、若いモノ。お困りですかな?」
狼はしゃべりだす――実際には腹話術だが――、
「困っているのなら相談に乗りますぞ」
ほっほっほ
狼は笑う。
えっと、どう答えればいいのかと思っていると少年と目が合う。
ガラス玉のようにキラキラと光る――感情を映さない瞳。
「相談か…」
夢は何かの暗示だと聞いた事があるけど、これは何を示しているんだろう。
「どうして、ここに俺が居るのかなって事かな?」
率直に告げると、狼のぬいぐるみは、
「確かに今のあなたには無意味な空間。だけど、ここは、貴方にとって貴方を伝える場所」
謎掛けか?
「貴方にとって貴方って…?」
「そうか。分かったぞ。シトラはおチビなんだな!?」
トラッタが答える。
確かに昔の俺に似てるけど、
「意味が分からない…?」
「当然じゃ。貴方は相談相手が居る。迷い、悩む時に打ち明けられる者が、じゃが、ここは資格あるからこそ入れる空間」
狼は恭しく、
「魔王候補の資格を得たという事じゃ」
と告げる。
「わーい(/・ω・)/。魔王候補だ~。おめでとう~」
トラッタが大喜びだが、意味が分からない。
「………………迷ったら」
ぼそりと声。
「迷ったらおいで。君は苦難の道でもその欲を捨てない決意をした」
少年が淡々と告げる。
「………やっと、声が聞けたね」
そんな少年に、たくさん言いたい事があった気がしたが口に出たのは、それだった。
分身がどこぞのものより親切設定なのは心の持ちようでこうなってます




