珍客
呼ばれなくとも遊びに来る
第145話 珍客
「――魔力が無くなっても座れるんだね」
興味深々という感じの声が降ってくる。
その声にリムクラインとアカネが私を守る様に玉座の横に立って構える。
「やっほ~。来ちゃった♡」
空間が裂け、現れたのは一人の子供――ただし、身体のあちこちから骨が見えて、肉も腐っている。
「冥王……」
「僕は冥王って柄じゃないって!! せいぜい冥府の番人」
こんな子供に王様なんてさせたくないでしょう。と告げるが、
「何を言ってる。魔王の中では年長の部類が」
呆れたように――まあ、通常運転だ――返すと、
「面白くないね~」
と、返される。
「ところで、どうして来たの? 魔王一愉快犯な貴方が」
以前ならお前がと言っていたかもしれないが今は、魔力とかから考えると格が違う。
しかも、こいつは魔王の中では知能派で、性質が悪い性格だ。
「ここには、幾つかの防衛装置があったはずだけど」
「――防衛ってね。君が死んでから弱体化してるし、――僕に通じるとでも」
そう告げる口元が笑っていた。
「ああ。そうだった……」
こいつには通じない。
なぜなら、
「死ある所に僕が居る。ここは死の気配が濃厚だ」
「………」
誰よりも生と死を見つめている王。それゆえ、死者が出た所で彼に侵入されない方法は同格の者が入るのを拒む事だ。
その場合の同格は魔王になる。
「……ところで、本人か確かめたいけど、僕の名前を呼べる?」
にやにや
面白がってんなこいつ。
「………久しぶり。ハゼット」
冥王ハゼット=ギア。こいつの言葉には気を付けた方がいい。
魔力が無くなっている事に気付いてる。
魂が同じでも念のためと確認してきている。
呼べる? と聞いているが、呼んでいいと告げてない。
つまり、
「うかつに呼んで、かつて同格だった存在が消滅するかしないか試してみようって事でしょ」
こいつのやりそうな事だ。
「あはっ、さっすが~」
ケラケラと笑って――こいつ笑い方にバリエーションがあるな――急に真面目な顔になり、
「――久しぶりだね。ラーセル」
と、愛称で呼んでくる。
「………………お前の事だから、本名で呼ぶと思った」
「かつて同格だった魔王に名を呼んで、認識されたという自負で魔力が向上するあれ? 君にしてどうするのさ」
あれは上位者に認識された自負でなるもので、君じゃ無理でしょ。
まともに返して、
「――それはそうと」
床に降りて近付く。
リムクラインとアカネはいつでも攻撃できるように構えている。
「君が僕の所にも高位の者にもなってない理由が分かったよ」
近付いたかと思ったらじっとこちらを見てくる。
「ハゼット?」
「……混ざってるよ。君。魔王の世界に誰か連れて行ったでしょ」
連れて行った。そう告げられて、
「……昔、死にかけた生贄を」
「それでだね。君の魂。人間のそれと混ざっていて、魔王でありながら人間と言う不思議な存在になってた。…勇者から君の正体を守っていたのもそれだよ」
存在は君と混ざっていたけど、残留思念が奇跡を起こしたんだろうね。
「……ラシェル」
生贄の勇者じゃなく、同化してしまった救えなかった少女の名を呼ぶ。
「分離させれるけどどうする? 今の君なら魔力もないしバレないと思うよ」
行くべき場所に行かせられる。だけど、
「………魂の関係では信頼できるけど、高位の者が分離した魂をどうするか分からない」
お前は信頼できる。だが、お前より高位の者が現れたらどうしようのもない。そう伝えると、
「そうなるよね。――じゃあ、もう一つ」
今までの笑みを消し去り、
「君の亡骸。魂が無いのに生きてるよ」
と重要な報告をした。
死に関する事の専門家。冥王。
かつて、死の病に苦しんでいた人間が死にたくないという執念で、魔王化した。
多分、この作品で出てくる魔王の中では最高齢。




