勇者と上層部
勇者の存在が空気と化す前に出さないと
第143話 勇者と上層部
魔王城が目と鼻の先だったが、勇者の足は止まったままだった。
かさっ
とある町――。
あの謎の存在の宣戦布告――だと思われる――モノを受けて、魔王城に向かっていた足を止め、魔王城に一番近い町に引き返す事にしたのは、
「勇者。上層部は何と…?」
上下関係には厳しい女騎士が尋ねてくる。
ここは、街にある神殿。
どこの町にも拠点があるそこは異常事態があれば、上層部との連絡を付ける拠点として利用させてもらっている。
………………今は懐かしい――と言うほどでは無いが――公衆電話のようなものだ。
「ああ。やはり全世界に流れたそうだよ」
全世界と言いながらもかつて霧に覆われていた地域のみだが、感覚としては全世界と言っても過言ではないだろう。
「新たな魔王か…」
「ああ。倒せと言われたけど…」
言い澱む。
「勇者?」
「………彼の者の宣言と共に魔物の被害が極端に減ったんだ」
統制されたそう言うかのように、人を襲うのは見なくなった。そう報告が上がっていると、そして、
「魔物が…この地域に以前から居た動物系の魔物がアンデット系の魔物に襲われた人々を助けていると言うのもあるそうなんだ」
口止めされていましたが…。
報告をしてくれた下っ端の神官は辺りを窺うように、伝えてくれた。
「実は以前からあったそうなんだ。魔物が人を助けてるという報告が、だけどその報告が大概小国からの物であったり、上層部には都合が悪かったから揉み消されていたそうだよ」
上層部――神殿関係者が殆どであるが、魔物は完全な悪であると言う考えがあるので、魔物のそういう動きがあってもそれは偽の情報だと取り合わなかった――都合の悪い事は無かった事にした――が流石にその事例が多くなっているのに勇者に伝えないのはおかしいと独断で教えてくれたのだ。
「……巫女が来なかったからその神官も言えたんだろうな」
巫女は今アンデット系が現れた時の為に浄化の準備をしている。浄化が効果があるはずだと勇者が告げたのに効果なかったのが悔しくて、道具を強化しているのだ。
「なあ、女騎士」
人気が無くなったタイミングで勇者が尋ねる。
「魔物は悪なのかな…」
巫女が居ないからこそ口に出来た迷い。
「……助けられた事例。魔王が居た方が被害が少なかった事実。共通の敵が居たから纏まっていた上層部。それらを見ているとどうもね」
幾ら単細胞で考え無しでも考えてしまう――と言うか魔人の二人は街こそ来てないが未だに行動を共にしてくれていて、巫女の敵意も軽く流している事実を見ると、
「俺のした事って間違っていたんじゃないかな」
最近夢を見る。武器に囲まれた夢でもう一人の自分が茶化しつつ責めるのを。
断罪するそいつに反論して来たけど、最近反論したくとも出来ない。
薄っぺらいのだ。自分の考えが。
魔王を倒して平和になる。
そう思って旅をしてきたのにその結果を見せ付けられ、正しかったのかと自問自答を繰り返して、でも戻れなくて……。
「………勇者は」
ぼそりと、
「勇者にとって害になる。そう判断したからとっさに動けなかったが、彼の者を救えなかった事を責めているんだな」
急に何を言い出したんだろう。
「女騎士?」
「……今思うと、彼の者は勇者が冷静さを必要としていた時に助言をしていた。勇者は勘で動き、本能で判断していたが」
「……それ褒めてる? 貶してるよね」
「かの者は、我々と違う目線で判断しようとしていた」
「………………YESマンだけじゃ社会は成り立たない」
ぼそりと、呟く。
「勇者?」
「前に新庄さんの友人に言われたんだ」
新庄さんがこちらになかなか来ないので照れているんだと思って、ならこちらから近付いて行こうとした時に、
『相手が嫌がっているのに行くのは迷惑だろう』
そうやって止めた男。
その時、周りの女の子達が先に反論していたので口を挟めなかったが、その時、
『………………YESマンだけじゃ社会は成り立たない』
と冷たく言われて、
『自分の取り巻きの動きを見てから真緒に接しろ』
話はそれだけだとそれ以上何もなかったけど、その言葉の意味を目の当たりにされた。
「俺、視界が狭まっていたんだな…」
幾らそう気付いてももう後の祭りだった。
真緒様の友人。
女の友人はいなかったが、男の友人はそこそこいた。
もふもふ好きのため恋愛対象にはなってなかったけど、それもあって女性陣に嫌われていたりする。
そして、悪循環………(´;ω;`)




