忠義心
メインにあえてさせなかったリムメイン。
第122話 忠義心
魔王様が滅ぼされた時――ずっと、内側にあった支柱が崩れたような感覚を味わった。
魔族――人間からすれば魔物か――と呼ばれていても下っ端の獣人。魔王様に会う事も近付く事も永遠にないと思って毎日人間に怯えて過ごしていた。
だからこそ驚かされた。
会った事も見た事も無いのに根源を揺るがす喪失感。
絶望が襲ってくる感覚。
内側が消えて、空っぽなのを突き付けられる。
魔族は全てその感覚を味わった。
それを消そうとして、ある者は強い者の加護を求め。
ある者は数少ない魔獣使いを頼り。
ある者は人を襲い。
ある者は人に殺されに向かった。
リムクラインはただ何となく――もしかしたら人間に殺されたかったかもしれない――人間に近付き、捕らえらえた。
そこで運命に出会った。
「分かるだろう」
尋ねてくる。絶対者の声。
胸に会った空っぽな物が埋められる。
「私の事は」
どうして、会った事無い。知らない声なのに涙が零れそうになるのだろう。
会いたかった。
会えた。
嬉しい。
幸せ。
時が止められるならここで止まればいいのにと願ってしまう。
でも、幸せはそこで終わらない。
「リムクライン」
呼ばれる名誉。その至福。
我が君に気に入られた。その認識が成長を促す。
獣人から魔人に。より強き者に。
この幸せのまま命を捨ててもいいと思える。
いや、それをしたら我が君の声を聞けない。
初めて目にする姿。
闇を捕らえたような黒い髪。
闇を凝縮させた黒い瞳。
黒い服に身を包んだ麗しい姿。
何よりその魔力。
泣きたくなるような歓喜――。
永遠に忘れられない――。
我が君の為ならなんでもなそう。
人が好きな我が君の為なら不本意だが人を守ろう。
同朋に人に危害を与えないように我が君の命を伝えて行こう。
全ては我が君のため。
我が君のため。
だが、
泣き続ける我が君。
勇者を助けようとして勇者に裏切られた。
「我が君…」
どうしますか?
尋ねる声。
ぴくっ
反応する我が君。
人を信じたい。でも、人を信じるのに値するのか。
迷う。迷っている。
「………」
我が君が命じるならすぐにでも人を滅ぼすのに。
「……私はもう魔王じゃない」
弱弱しい声。
勇者が魔王に変貌しつつあるので弱体化している。
勇者を封じた事で一気に弱体化したのだろう。
確かにもう魔王と呼べるほどの力は無い。
だが、
「関係ありません」
断言できる。
「私とアカネ。そして、クーにとっては貴方こそ我が主君。我が君です」
それは永劫に変わらない。
「貴方様の意思に我々は従います」
そう、他の魔族が新たな魔王を魔王と仰いでも自分達はこの方だけを魔王とし続けるだろう。
「……重い」
「すっ、すみません!!」
体重を掛けてしまいましたかと慌てて離れようとするが、
「いや、体重じゃなくて、想いの話」
そこまでの器じゃないけどな。そう呟いて、
「真緒」
「はい?」
「その名で呼んでほしい。私が人であり続けるために」
ああ、この方は。
「――お供します。地獄でも」
人に裏切られても人を辞める選択を選ばなかった。
足元にはアカネ。そして、空間に溶けて見えないはずの半透明な手足――クーが手首に絡みつく。
「勇者がどう判断するか分からないけど、私は自分のした事の責任を取らないと」
そう部下に宣言する姿を眩しげに見つめた。
クーの事は忘れてなかったよ!!




