お願いです。私に胃薬をください………
振り回されるのに疲れてきた
第114話 お願いです。私に胃薬を下さい………
真下に見えるのは緑あふれた大地。
「覗き込むと落ちます」
忠告してくれる巨大な背しか見えない龍。
「……」
どうしてこうなった。
もう一度言おう。
どうしてこうなった。
魔王城に向かう
↓
龍の背に乗せてもらおう
↓
龍に対して何考えてる〈激怒〉
↓
面白そうだな
↓
仕方ない。乗せてやろう→今ここ
(あっさり乗せるじゃない!!)
「どうかしましたか?」
「い…いや…何でもない」
まさか、背中に貰えるとは思ってませんでしたと本人(本龍?)に言えるか。
「………言いたい事は理解した。ラントが決めた事であるし、末は逆鱗を渡した。貰った方が意味を知らなくても我らは逆鱗を渡す事は相手の意思に従うと同義。力を貸してほしいと思ったなら末は従う。………人質に近い感覚だろうな」
背中の乗せてくれているのは長男。
因みに長男は私。
末っ子は魔法少女。
長女はアカネ(?)。
後の残りは次男が乗せている。
どうしてこうも偏っているのか。少し前に遡る。
「人間なんて乗せたくない!!」
次男の発言に異議を申し付けたのは長女。
「乗せるのなら魔族がいいです!!」
びしっ
指差したのはずっと肩に乗っていたアカネ。
「……………………ふぇ!?」
ナニヲオッシャッテイルノデショウカ?
「人間など乗せたくない!! 小兄様が乗せて下さい!!」
「…………あの、僕は魔法少女さんなら安全を確保できると思いますが、他の方は…」
飛ぶのが苦手だ――後で聞いたら水洋系の龍らしい――から逆鱗渡した魔法少女の安全は確保できるが他の人間は自信ないと明言され、
「――この人間なら乗せる」
長男は私の腕を取って宣言した。
「へぇっ?」
そこでなぜ私を出す。
「兄貴!! 俺に三人乗せろっていうのかよ!!」
「――引き受けたのはお前だ。責任を取るんだな」
「ひで~!!」
「すみません小兄様。飛ぶのが苦手で…」
「いや、《水琴》が悪いわけじゃないから」
「そうだ。自業自得と言うやつだ」
「引き受けた小兄様が悪いです」
仲いいなお前ら。
そんな風に茶々を入れたくなった。
勇者がいなかったら茶々を実際に入れていたと思う。
…………そういや、前世の魔王ってこういうノリ好きだったな。
そんな事を思いつつも誰を載せるか乗せないかでわいわい騒いで、一対二には勝てないで、このようなアンバランスになった。
「――それはともかく」
空の上。会話をするのは本来なら一苦労なのだが、その手の事は大丈夫な術が勝手に展開されているので――他の面々は全くされてないので、しゃべろうとするたびに舌を噛みそうになっていた――普通に会話が出来る。
「いいのですか? 城に招いて」
案じてくれているんだろう。
「まあ、早く入らないと解決しそうもないし、龍帝は私に再び即位してもらいたかったんだろうけど」
それは無理だ。
「龍帝に伝えておいて、近いうちに解決するから侵略は待ってほしいと――ラーセルシェードの名で誓うと」
わざわざ名乗ったのは、龍帝に対しての敬意もあるからだ。
「……………………仕方ない。だが、冥府の番人は止まらないだろう。彼の者は…」
「――だろうな」
龍帝は私の名誉を傷つけられた事もあっての侵略だろう。義理堅いから。でも、
「あいつなら、負け犬の話は聞かないと言いそうだな」
それに、あいつは、
「誰よりも人の弱音を抉って、楽しむ愉快犯だからな」
特に人が信じている者を根源まで壊して正気を失墜させるのがお好みだ。
あいつと対面するのが一番面倒だ。
「ああ……」
胃が痛い。
胃薬を買ってこればよかったと心から思った。
勇者達が空気だったけど気にしない。気にしない。一休み。一休み。……出来るといいね




