勇者の決断
珍しく空気を呼んだ
第112話 勇者の決断
朝だった。
野宿とかが多いイメージだったけど、宿で寝起きするのが多いなと思っていながら、宿から出された朝食を口にしていたら。
「――魔王城に行きたい」
勇者が朝食に手を伸ばさずに宣言する。
「「「はいっ!?」」」
ハーレム組の反応は見事同じで食事の手を止めて勇者を凝視している。
「……」
そういう私も、パンを咥えたまま手が止まっている。
勇者は何を言ったんだろう。
魔王城に行きたい。
今向かっているのではないのだろうか。
(寄り道が多いけど)
「魔王城に行きたいんだ。一刻も早く」
こちらの反応がいまいちだったから伝わってないのかと思ったのか。もう一回告げる勇者。
一刻も早くと告げるのを聞くと寄り道多いのが気になっていたんだろうなと判断する。
「………理由を尋ねても?」
巫女が口を開く。
「ああ。――龍のみんなの話を聞いて思ったんだ」
迷うように一瞬だけ視線を揺らし。
「結界を維持する方法。魔王と勇者しか出来ない事なのにそれを俺はしなかった。その結果が」
この地を侵略する魔物と人。
争い合う魔物。
食べ物が手に入らずに弱っていく人。
各地で広がる格差。
……………前二つは勇者の目で確認できたが、後ろ二つは勇者は実際見ていない。
でも、宿で泊まっているだけでも情報は入ってくる。
どこそこで物価が高くなった。
どこそこは日照りが続いて凶作だ。
あの街では戦争の準備をしている。
そして、〆は。
「勇者が魔王を倒さなければこうならなかったんじゃないのか」
「魔王が居た時の方が平和だったよな」
である。
「……」
今まで勇者達はその声を気にしてなかった。
盲目だったと言えばいいのか。外野の声に耳を傾けようと思ってなかったので届いてなかった声が、最近聞こえるようになってきたようだ。
………彼らは彼らの信じた正義が崩壊していたのにようやく気付いたのだ。
「何とかする方法が魔王城にあるのなら一刻でも早くいきたい」
「それはいいが…今でも急いでいるのにこれ以上は急げない」
「勇者は……目の前で苦しんでいる民草を見捨てるんですか!?」
巫女が責める。
「……」
バカバカしい。
「民草を救うのは勇者じゃなくて、その土地を治めてる者でしょ」
つい言ってしまった。
「何を…」
「領主や教会の仕事でしょう。勇者一人でする事じゃない」
断言する。
「餅は餅屋。勇者勇者と崇めてるけど、彼は元の世界じゃ高校生なんだから」
ようやく自分で判断したんだから止めてはいけない。
「新庄さん…!! そこまで俺の事を考えてくれていたんだね!!」
「はあ!?」
何をいきなり言い出すんだ。
「俺の事嫌いだとか言いながらここまで俺の事考えてくれていたなんて!! ツンデレってやつだね!! 騙されたよ!!」
……………………何が一体どうなった?
何ほざいているんだ。こいつは!!
「湯島君…?」
ああ、ハーレム組の視線が痛い。
最近じゃ、私が勇者の事眼中にないのが伝わったのか視線が緩やかになってきたのに――。
「湯島君!! 話が脱線してるけど!!」
イライラと話を戻す事に専念する事にしたら。
「ああ。そうだった」
と、思い出して話を戻す。
(疲れた…)
胃が痛くなるのは久しぶりだ。
(胃薬でもそろそろ用意した方がいいかもしれない……)
再び強くなった殺気によく似た敵意を感じて溜め息を吐いた。
ただしそれも一瞬だった。




