都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その14
前回伝え忘れてましたがキシェラックさんは魔物と共存する街の魔人さんです。名前があったのですが王に要らないモノ宣言されると自分の名も思い出せなくなるんです
第104話 都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その14
結界が揺らぎ、侵略者が現れる。
「どうして……」
生贄を差し出したのに、
「どうして…」
安全は保障されたはずなのに。
今までの絶対的安心感が崩れる。
信頼が壊れるのも一瞬。
「化け物が…」
化け物。
「魔物が」
魔物が。
「魔物の王のせいで…」
平和に甘んじていた事を棚に上げて、責め立てる。
所詮人間ではない者に頼っていたのが間違いだったのだ。
「地獄絵図だな」
一人の男が告げる。
楽しげに嗤いながら。
「まあ、獣の王は放っておかないだろう」
約定は果たそうとするのは分かっている。
そして、理解しているから。
「獣の王の呪いを消しましょう」
男が告げる。
その傍には、獣の王に呪われて、商人に謂れもない――と本人は思っている――罪を押し付けられた令嬢。
そう、自分のした事を正当化して罪の意識もなく、我が身の不幸を嘆くのみ。
「まだ、気が触れている方が楽だったのに……」
商人も余計な事をする。
まあ、商人はもういないが。
ある場所で、両親の名誉を回復させる胸を託した書類を手にして息絶えた青年の遺体がとある協会の壁に吊るされている。
それの犯人はその後も見付からない――。
「ほんと……」
放心していたが、その言葉に反応して顔をあげる。
「ええ」
男は笑う。
「貴女が神となればいいんですよ」
その言葉と同時に令嬢を地獄絵図にしか思えない世界に投げ入れる。
「えっ!?」
どういう事だと問い掛けようとするが言葉が出ない。口が動かないように術を仕込まれているのだ。
「ああ。何という事だ!!」
男が大きな声で嘆く。その男の近くの者も同様に。
「生贄の方が!! 自らをお責めになって!!」
茶番劇。だが、知らない者からすると真実になる。
偶然。
かつて令嬢としてふるまっていた女性が、植物に包まれると同時に空から金色の刃が次々と侵略者を焼き払う。
「奇跡だ…」
誰かが呟く。
「聖女が現れた」
その言葉にその者らはひっそりと笑う。
「皆さん。私達は彼女のユスティ様の犠牲を忘れてはいけません」
「私達はここで宣言します。魔の王が支配する時代に終止符を。聖女を崇め。新たな世界を」
聖女――ユスティ。
それは、彼女の真の名前。
奴隷ではなく彼女の名が使われた事で彼女は真実神となった。
本人が望まない形で――。
ある意味獣の王の呪いが、商人の復讐が果たされた瞬間だった。
*
「我が君」
玉座に座り、結界内の掃除を終えた王に声が掛けられる。
「人間達があの雷を我が君が行った行為ではなく、人間の娘がしたと口々に言ってますが…」
キシェラックの報告をどうでもいいと首を振る。
「我が君!!」
「……今はそんなの気にしたくない」
弱い声。
「…………心が無ければ、王として考えないといけないと思うから苦しいのか……」
落ち着いたからようやく死を痛める。
「……なあ」
『名前は何という?』
出会った頃尋ねてみた。
『えっと、私の名は――』
「ラシェル」
私はつくづくラシェルと言う名に縁があるらしい。
人間として行為を抱いた者が二人とも同じ名前だ。
玉座に座り、流れてくる情報を一時的に閉ざす王。
それからしばらくして、獣の王と敬意をもって呼んでいたのが魔王と恐れ、魔族と言う種族は種ではなくモノと言う扱いになった。
人の記憶から約定が消えた形となったのだった。
生贄の少女の話は一応終わりですが、過去編は少し続きます。




