都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その13
再会はあっという間でした。
第103話 都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その13
とっさだった。
部下を送ればよかったかもしれないが、それでは間に合わないと判断した。
自分ですらこの有り様だ――。
「王様…」
ぜーはーぜーはー
苦しげな声。
「駄目だよ…玉座…」
「ああ…」
玉座を降りてしまった。
すぐに戻らないと――。
転移を使用してすぐに玉座に戻る。
「――被害は?」
傍に控えていた部下に尋ねる。
「………南西から植物系の魔物が出現。近くの魔族が討伐しましたが近隣の村が寄生されて20人ほど臥せっています」
「…………そうか」
植物か……。
「精霊王は相変わらず素早い」
感心したように告げる。
「フェルテオーヴァ。キシェラック」
側近二人の名を呼ぶ。
「――はっ!!」
「御前に」
現れるのは二人の部下。
穏健派代表のフェルテオーヴァと強硬派代表キシェラック。
「少し潜る。何かあったら二人で決めろ」
報告を聞いている内にますます辛そうに表情になる少女に視線を送る。
王としての責務があるから後回しにしないといけなかった。
……ただ剣で刺されただけならば回復させられると思っていた。だけど、改めて見ていると怨念を感じる。
苦しんで死ねばいい。
そんな想いの妄執が呪いとなり、回復させるのを拒んでいる。
これでは、回復が得意な部下を呼んでも助からないと判断したのだ。
「助けるから」
その方法は今は無い。だけど、方法が手に入る手段を持っている。
少女を抱いたまま目を閉じる。
意識を潜らせる。
王と言う存在になってから自分の深淵に出来た世界。
知識の図書室。
そこに辿り着く。
本棚の本を一つ一つ確認していく。
「無いか…? いや、ある」
呪いを無効化させる方法。回復を早める方法。……助ける方法があるはずだ。
ここは知識の宝物庫。
王になった事でこの空間が出来て、自分は他の種族との会話を学んだ。
ここならば呪いを消滅させて回復を――。
「――無理だ」
届く声。
魔獣。
獣人。
魔人。
そして、一匹の狼。
かつての自分の姿。
「無理って…」
そんな筈は。
「手を見てみろ…」
告げたのは魔人だったころの自分。
「手…?」
どういう事だと無視せずに手を見たのはその声に従わないといけないといけないという本能だったのだろう。
さらさら
潜る時に連れてきていたのだろう。彼女の姿。それが、砂のように崩れていく。
「ど…? どうして…!?」
何でどうして……。
「――ここは王の世界。弱い者をこの空間に入れたらその魂は王と同化する」
「同化…?」
「魂は冥府の門を潜り、再び地に降りる。だが、この魂はすでに王の一部になり、王と共になった」
同化。
もう、声も聞けない。
笑顔を見れない。
『王様』
花を持ってくる事も無い。
「幸せにしたかっただけなのに…」
奴隷として暮らしても歪まなかった魂。
幸せにしてあげたいと思ったのに――。
人であるから早く死ぬとは分かっていたが死ぬ前に人間として幸せを謳歌させたかった。
今までに生贄達と同じ様に――。
だが、その魂を消滅させたのは自分だ。せめて来世では幸せにしてあげたかったのにそれを奪ったのだ。
黙っていた最初の自分と目が合う。
「王に公私混同は許されない」
近くに居た魔人の自分が代弁する。
「約定を忘れ、玉座から降りた事で結界が揺らいだ。王は責任を取るべきだ」
理解しているだろうと告げられ頷く。
長いような短いような時間。時間は有限。動くべき大切な時を無駄にしていると責められてもおかしくない。
「……」
かつての自分は何も言わない。
だが、
「私は王だ」
人一人の悲しみに囚われてはいけない。
自分の責務を果たさないといけない。
今しなくてはいけない事が頭に浮かんで悲しみだけに浸れない。
「すぐに片を付ける」
即決。
振り向きもせずに去っていく。
非常だと責められてもそれが王。
せめて、自分のした事の責任を取らないといけなかった。
さて、お忘れかもしれませんが、真緒様は獣の王と同じ事をしてます。それと今回の違いは何でしょう。




