都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その11
病んでます
第101話 都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その11
貴族のご令嬢と商人が結婚すると街で話題になって一種のお祭りの様に騒がしかった。
「結婚……」
その騒ぎを聞いてぼろぼろのフードを被った旅人はぼんやりと呟く。
「愛人じゃ……」
旅人の格好をしている元ご令嬢は信じられないと呟く。
愛人だと言われたので、貴族である自分になんて態度だと許せずに自分によく似た奴隷を送り込んだのに――。
(どうして、あればっかり!!)
愛人じゃなかったのか。
きっと、あのアバズレ女が言いくるめて愛人じゃなくて正妻の座に収まったのだ。
そうに決まっている。
「なんで……」
何であればかりいい目の合うんだろう。
父は生贄に行ったあればかり気にして病気で倒れた。
母は捨てた娘が奴隷になっていた事実を知り、気が狂ったように神に祈ってこちらを見ようとしない。
「ああ、そっか」
すとんと答えを見付けた。
双子は災い。片方の運命を喰らっていく。
「あれがわたくしの幸福をすべて奪って行ったのね」
生贄に行った筈なのに気に入れれて幸せに為る筈だったのも本当なら自分だった。
商人と結婚して裕福になるはずだったのも本当なら自分だった。
………どちらも自分がしたくないと押し付けた事実を忘れて勝手に結論を出していく。
「正さないと。運命は……」
その手には剣。身分不相応にも自分を傷付けた男達を殺して奪った武器。
運命はまるで彼女を味方するように止めなかった。
結婚式を執り行う教会。
かつて、獣の王と契約して平和を作り上げた生贄の勇者を崇める教会。
今まさに神に結婚を誓おうとしている時だった。
ぎぎぎぎぎぎっ
大きな扉が開かれる。
「その結婚。異議あり」
フードを外し、狂気を孕んだ眼差しで令嬢は笑う。
ざわざわ
そっくりな顔立ちの女性が現れて騒ぎが起こる。
「酷いわよね。わたくしに生贄を押し付けて幸せになるなんて」
押し付けてない。
押し付けたのは令嬢の方だが、自分の都合のいいように記憶を改ざんしている。
「酷いわよね。わたくしを犠牲にして幸せを謳歌しようなんて…」
ざわざわ
令嬢の――この場合そっくりの女性――言葉を聞いて、周りが騒ぎ出す。
生贄の少女の話は記憶に新しい。奴隷の少女とその家のご令嬢は顔立ちがそっくりであった事も噂として耳にしている。
この女性が生贄として差し出された少女か。
生贄に差し出されても獣の王の元で幸せに暮らしていると伝わっていたのに、この女性の格好を見る限り幸せとは程遠い格好になっている。
いや、人々は差し出した生贄にたいして罪悪感を抱かないために《そして、幸せになりました》を望んだだけなのではないかと不信感を抱きだす。
そして、
「わたくしを犠牲にして幸せになるつもりなんて…」
許さない。
手には剣。
笑みを浮かべてその剣は誰一人止められず花嫁を貫いた。
残酷描写は必要だったかな……




