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諸事情につき、勇者ハーレムの中にいます  作者: 高月水都
獣の王の過去のお話し
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都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その7

ここまで長くするつもりはなかったのにな…。

  第97話  都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その7

 がたがた

 ごとごと

 馬車が進む。


 豪華な馬車。そこには貴族のご令嬢が婚礼衣装に身を包み、地元で有名な商人の元に輿入れをする為に乗っている。

 結婚を祝う人達が家の外から馬車を見て、嫁いできた花嫁を一目見ようとしている。


 とてもおめでたい華やかな光景。


 だが、その馬車の中では蒼白な顔をした花嫁が、馬車の中で縮こまり小刻みに震えていた。


「………」

 馬車など乗れる身分ではなかったので、乗せられてすぐはそれで罰せられないかと怯えていたが、今は、

(帰りたい…)

 帰りたい場所。そんなのが出来るとは思ってなかった。

 帰りたいと思うところが、自分が一番落ち着ける場所だと言うのはなんとなく理解していたし。奴隷として生きてきた自分に落ち着ける場所など無かった。

 幼い頃はあったかもしれないが、生活に苦しくなったという理由で人買いに売られた立場だ。そこはすでに帰りたい場所ではない。

 その後も帰りたいと思えるほど心を落ち着かせるところもなく、常に周りを警戒していた。

 まるで、ハリネズミの様だった。


 生贄になるまで――。


(王様……)

 心配してるだろうか。

 ………心配してくれるだろうか。


 玉座から降りれないと告げた声がいつも呼び掛けてくれた。

 がりがりの姿だったのをもう少し肉を付けた方がいいと抱き上げて食べさせてくれた手。

 その温もり。

 怯えていた心をゆっくりと癒してくれた。


 奴隷として自分とよく似たご令嬢――実の姉妹だと知らない――の屋敷の方が長く暮らしていたけど。そこは苦しいだけの場所。

 5年と言う歳月で、幸せを実感できるようになったのは――。


「………して」

「どうしました? お嬢様?」

 煌びやかな服。

 塗り手繰られた化粧。

「わたしは…!?」

「お嬢様」

 お嬢様ではないと言おうとした言葉を封じられる。

「貴方はお嬢様なんですからもっと威厳を持ってください」

 でないと……成り済ましとばれて殺されてしまいますよ。

 従者の言葉が動きを封じる。


 華やかな婚礼の馬車。

 貴族のお嬢様が嫁いでくるとお祭りになっているが、裏の事情を知っている者は借金のかたに愛人にさせるのをお嬢様の我儘で婚礼と言う体裁を整えられたもの。

 そして、

 馬車に乗るのはその貴族のご令嬢ではなく、それによく似た奴隷の娘。


 商人を馬鹿にしているとしか思えない行い。

「貴方は…」

 従者に尋ねる。

「貴方はいいの…?」

 バレたら成り済ましに加担したとして殺されるだろう。近くに居たのに気付かない訳がないと――。

「………」

 従者はどこか覚悟しているような眼差しで、

「給金で家族を遠くに逃がした。………心残りは無い」

 まあ、君の演技が上手ければいいだけの話だけどな。


 そんな話をしていると大きな屋敷が現れる。

「……」

 ここが新たな牢獄。


(王様…)

 玉座から動けない王。

 人間と余計な争いを好まない王。

 優しい。とても優しい大好きな王様。

「さようなら…」

 もう会えない。その思いが言葉として紡がれた。



生贄の少女は獣の王をお父さん感覚でいます

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