都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その6
5年前に来ていれば興味深い魂だった
第96話 都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その6
獣の王は不快気にそれを見る。
「――片付けろ」
命じるとともに魔人がご令嬢を掴み、引き摺って行く。
「ちょっと、邪魔しないで!!」
掴んでくる手を払いのけて、
「本来ならわたくしが来るはずだった。それがあの奴隷娘が入れ替わったのです!! 偉大なる王よ。わたくしは約束を果たしに来たのです!!」
獣の王が納得しないのならそう伝えればいい。王は約束を守る方だ。人間の誠意を感じてくれるだろう。
そのアドバイスに従い、動いたのに、
「あんな子よりもわたくしの方が貴方様の近くに相応しいのです!」
どうしてこんな事をするのかと抵抗しながら叫んでいる。
「わたくしはただ、貴方様に対して誠意を見せるために来たのです。それを…あの奴隷娘が!!」
なんで、わたくしよりもあの奴隷娘に気に掛けるのだ。
この王も。…お父様も!!
「あんな奴隷の子に価値など無いのに!!」
奴隷の子と叫ぶ声。
実の姉妹だと真実を知っていても。ご令嬢にとっては、彼女はあくまで奴隷の子。似ているだけでも不快だったのに血が繋がっているという事実は自分と血を繋がっているのに奴隷として身を落とした忌々しい存在。
消し去りたい汚点。
「……」
獣の王の基準は見目よりも魂の輝き。
そして、その存在の生き方に興味を持つ。
生贄を選ぶのは獣の王本人ではない。だが、対外当たりが来るのは選ぶ者達のセンスだろう。
…………獣の王が生贄を育てるのを楽しみにしているのも一因だが。
「お前に価値など無い」
生贄に不満があったなら5年前に動いていた。
人間の世界で5年はかなり長いと思っていたがそうではなかったのだろうか。
5年前に来ていたのなら価値はあったかもしれないが、今はあの娘を育てている途中だ。
「今更な事だ」
それが答え。
それきり、言葉を掛けない。
遠見の術を使用して、育てている娘を探す。
この成り変わろうとしていた娘が居るのならその娘に円がある所だろうと判断する。
まず、娘が住んでいた家。
「居ない…」
人の街。
「居ない…」
花を摘みに行ったところは部下が探している。
「どこだ…」
獣の王は神に――高位の者に祈る習慣は無い。だが、
「ラシェル…」
自分の認めた勇者。立場こそ対極だが、友として呼べる存在に祈る。
「あの子が無事でありますように…」
助けてくれ。
その言葉は届いたのか。目の前のたくさんの映像が映されている中。
キラッ
ある映像が映し出された。
再会の時はあと少し……




